コラム「組織の成長加速法」-第211回 なぜ50代のベテラン社員が動き出したのか? 「成長の見える化」の秘密
ある80億円企業の役員であるMさんは、50代の部下2名の扱いに困り果てていました。Mさん自身も50代ではありましたが、部下2人はさらに5歳以上年上で、現場の経験もMさんより長く、支店の運営に関しては熟知しているはずでした。
しかし、Mさんが指示を出しても、思うように物事が進まないどころか、悪化することすらありました。部下の対応に問題があり、社員や顧客からのクレームが相次ぎ、その尻拭いをするのは結局Mさん。役員でありながら現場対応をしなければならない状況に、彼は苛立ちを募らせていました。
そんな折、会社がマネジメント技術の導入を決定しました。しかし、Mさんは懐疑的な態度を取り続けました。
「自分は20代後半から部下を持ち、一通りのマネジメントは経験してきた。何を今更……」
彼の態度は冷ややかで、私との初回ミーティングでは無愛想そのものでした。腕を組み、時折スマホをちらりと確認しながら、「興味がない」と言わんばかりの雰囲気を醸し出していました。
成長は人間の本能の一つであると考えています
私たちは、成長とは人間にとって本能的なものではないかと考えています。人間には生存・繁殖・社会性といった基本的な本能がありますが、それに加えて「成長の本能」が存在するのではないかと考えています。この本能が満たされないと、意欲が減退し、最悪の場合、心身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があるのです。
「よく考えてみてください。子供が成長を楽しむのは、毎日が新しい発見の連続だからです。昨日できなかったことが、今日できるようになる。その瞬間の喜びが、次の成長へとつながります。しかし、大人になるとどうでしょうか。仕事はルーチンになり、毎日が同じことの繰り返しになってしまいます。そうなると、モチベーションが低下してしまうのも無理はありません。」
私はMさんにこのようにお伝えしました。この言葉を聞いて、Mさんは少し考え込むような表情を見せました。
成長を実感することで人は輝く
子供の目がキラキラしているのは、毎日成長を実感しているからです。新しいことを学び、昨日できなかったことが今日できるようになる。その経験が彼らの好奇心を刺激し、活力を生み出します。
「ですが、大人になれば、成長を実感する機会が少なくなるのではないでしょうか?」
Mさんがそう質問されたので、私はこうお答えしました。
「だからこそ、成長の『見える化』が必要なのです。成長が目に見える形になれば、大人であっても、成長の実感を手にすることができるようになります。」
「具体的に、どのように見える化するのでしょうか?」とMさん。
「それを実現するのが、このマネジメント技術とマネジメントの仕組みです。」
「なるほど……」Mさんは少し考え込むように顎を撫でました。
成長の「見える化」が組織を変える
私たちのコンサルティングでは、特に「成長の見える化」を重視しています。人は、自分がどれだけ成長しているかを実感できると、自然と前向きになり、主体的に行動するようになります。
実際にこれは多くの方々が経験したことと合致しています。過去に、何かしらの目標を達成した時の経験を思い出していただくと、誰しもが、その時感じた「達成感」を思い出します。
達成感こそが、成長を実現するための次なる努力の熱源となります。わかりやすく成長を見える化することで、好循環を意図的に創り出すことができます。
このように書くと、「そうか、目標設定すれば良いのか!」と誤解する方が多いですが、これまでも「目標設定」はどんな組織でも実践されてきています。これまで通りのやり方を踏襲しても全く機能しないことは明白です。
どんなに精緻な目標も、どんなに意欲的な目標も、「成長の見える化」に寄与しなければ、全く意味のないものになってしまいます。
この「成長の見える化」は、その手法をマスターしてしまえば、誰でも、すぐに「成長の見える化」の仕組みを実践することができるうになります。成長を可視化する仕組みを取り入れることで、リーダーの経験値に依存することなく、組織全体を活性化できます。
Mさんの部下2名は、最初こそ変化に戸惑いましたが、自分の成長を実感できるようになると、驚くほどのスピードで前向きに動き始めました。結果として、クレーム対応に追われていた日々が、部下の自発的な行動によって改善されていったのです。
マネジメントの仕組みが生み出す効果
マネジメントは、個々の社員の違いに細かく対応することが重要なのではなく、すべての人に共通する「成長の本能」に働きかけることが鍵となります。
「つまり、部下を変えるのではなく、環境を変えることが重要ということでしょうか?」
「その通りです。人が自然と成長できる仕組みを作ること、それがマネジメントの本質的な役割だと考えています。」
Mさんは深く頷きました。
まとめ:成長の実感が組織を活性化させる
今回のMさんのケースから学べることは、「成長の実感こそが組織を変える最も強力な要素である」ということです。
長年の経験があるからこそ、「自分のやり方が正しい」と思い込みがちです。しかし、組織の成果を変えたければ、まず「成長を可視化する仕組み」を取り入れること。
それが、社員の意欲を引き出し、組織全体のパフォーマンスを最大化する鍵なのです。
「よし、やってみよう。」Mさんは静かに、しかし力強くそうおっしゃいました。
そして、実際にこの仕組みを導入してみると、驚くほどの変化が起こりました。部下たちはこれまでのように受動的ではなく、積極的に業務改善の提案をし始めたのです。さらに、チーム全体の雰囲気も良くなり、以前よりも活気が生まれました。
「まさか、ここまで変わるとは……」Mさんは驚きながらも、その成果を喜んでおられました。