コラム「組織の成長加速法」-第122回 若い社員をダメにすることで有名な人、エリア統括のYさんに起きたこと。
関西にある年商80億円のR社。他社がうらやむ成長率を誇り、同業者間では、勝ち組として有名な企業です。
現在のS社長は、販売の最前線に配属され頭角を現し、3年で支店長になったそうです。今でこそ、温和なS社長ですが、支店長時代の失敗体験を話された時は、苦笑いをされていました。
なんでも、怒鳴り散らして、営業マンが次ぎ次に辞め、支店の売上げが激減。当時の社長から直接電話で呼び出され、こっぴどく叱られたそうです。
そんなS社長が、昔の自分を見ているようだといって、エリア統括のYさんの話を切り出しました。
Yさんは、47才。M&Aで6年前に買った会社の役員だったそうです。自他共に認めるトップセールスマンで、飛び級で役員になった方。
ところが、M&Aの後、組織組み替えで、管掌地域の売上げが1年で半減する事態となり、責任をとって降格になったそうです。
その後も、Yさんの配下の支店長や、営業マンからは、不平不満が本社に漏れ伝わることが続いていました。
社長としては、Yさんの営業力を高く評価していました。だからこそ、Yさんを直接呼んで、教え諭し、繰り返し注意もしてきました。が、改善がみられませんでした。
そのYさんとも面談し、またYさんがどのように部下に接するかを確認するとさすがに私も驚いてしまいました。
部下と接するYさんと、それ以外の、同僚、上司、顧客に接するYさんはまるで別人のよう。相手が部下になると、人格が変わったように、高圧的な受け答えに変わるのです。
こうしたYさんの部下での、組織経験のある中堅以上の社員達は、適度に受け流しができるものの、新人が配属されると、文字通りミルミル元気がなくなっていきます。
Yさんは、自分の統括エリアの全支店会議でミスがあると、総勢60名の社員の前で、罵声を浴びせるのです。
罵声を浴びてすっかりしょげた若い社員をどんなに支店長がフォローしても、2,3回それを受けた若い社員たちの元気が回復することはありませでした。半年も立たないうちに、一人抜け、二人抜けということが続いていました。
毎年4月、桜が咲く頃、真新しいスーツをきた初々しい新入社員達。澄んだ目をした彼ら彼女たちをみていると、ほほえましくもあり、近くを通るだけでこちらまで元気をもらうように感じます。
こうした社会人一年生、夏が終わる頃には世の中から忽然と姿を消します。いつの間にか、目から光が消え、陰鬱な目をする世の中の大勢の人達に混じってしまいます。
確かに、僅か数ヶ月で人は変わってしまうのです。
問題はその変わりよう。社会人としての自覚に目覚めて、自ら世に価値を創り出す使命感をもって、その覚悟の上に落ち着いた目なのか。
毎日のように怒鳴られ、なじられ、精神的に小突かれ、ひきづり回され、自分自身にあきらめ、そして、行き場のない怒りに疲れた目なのか。
本人達の努力や、それまでの経験により、解釈を誤ることもあるでしょう。
しかし、私がこれまで身近で直接指導してきた二百近くの組織を見てきた限り、もっと強い別の作用が働いていると考えています。
それは、Yさんのように、間違った手法で部下と関わり、悪気無く、希望に溢れていた若者をどん底に突き落とす事が行われているということ。
実際にYさんになぜ、そんなやり方をするのか?を聞いたところ、相手の奮起を期待してやってるとのことでした。
Yさん自身も同じようにやられてきたそうなのです。同期はあっという間にことごとくいなくなり、2年目から成績が一気に上がったとのこと。
自分自身もその時と同じ状況に戻りたくはないものの、自分が若くして成果を上げるようになったのも、その厳しい環境があった故と信じているのでした。
そこで、私はYさんが信じている事実とは違う事実を数字の推移、離職人数の推移を見せました。そして、その数字から浮かび上がることを共有しました。もちろん、そうしたから、Yさんが自分の過ちを認め、懺悔するなんてことはありません。
ただ、別のやり方はあるかもしれず、当然、そうすれば違う結果もあり得る。ということをわかるだけです。
しかし、これが、全ての変化の最初に必要なことです。自分がやってきた方法以外、何か別の方法があるのかもしれない。そう考えない人に、何をいったところで、何ひとつ受け入れられることはありません。
たとえ、その人に本当に必要情報、学びであっても、自分のほおを撫でながら通り抜けるそよ風のように、ただ、自分の脇をサラサラと流れていくのです。何ひとつ、そこに風が通った形跡は残らないように、ひとかけらの学びも残ることはありません。
Yさんは、自分のやり方とは、まるで違うやり方に最初は戸惑いを隠しませんでした。ふて腐れて、適当にやったこともありました。当然、それにはそれ相応の反応が部下から出てきます。
Yさん自身、そうした反応にはこれまで目もくれず、好き放題やってきました。私はその結果をYさんに突きつけます。そして、それを繰り返す。
若い社員から希望を奪い、どん底にただ突き落とす、Yさんのような人は、どこの組織にもいます。そしてまた、Yさんのように悪気がない人達も沢山います。
当然、S社長や、他の幹部がYさんを叱ったように、他の会社の社長や幹部もまた、Yさんのような社員に何度も注意をしています。ところが、全く変わらないというので、手を焼いているのです。
でも変化は必ず起こすことができます。その鍵は、自分事だと認識させること。
自分は関係ないと思っていたことが、自分が関係していることを思い知らされる。そして、少しでも自分が違うことをすると、相手も違った反応をする。このことを目の当たりにすると、自分の周りに起こること全てに対して、とらえ方がまるで変わってきます。
このステップは、もう決まっていて、いつも同じように、Yさんのような人達の変化をつくることができるのです。
Yさんは、トップセールスマンでした。営業マンの場合は、他に人達よりも、変化は早く起きます。プログラムが始まって3ヶ月目の始めには若い部下に驚くべき変化が起こりました。
他の支店で、上司と上手くいかず、Yさんが支店長を兼務する支店に移動してきた28才の男性。Yさんの元同僚の支店長からも、「相当な厄介者」として引継ぎを受けていました。
厄介者であったはずの、28才の男性の変化もまたドラマのようでした。2ヶ月目には、入社以来4年も達成したことがなかったKPIを次々に達成することになったです。
最初は何か、プライベートで良いことがあったのっだろう。Yさんも、自分が起こした変化とは信じられずにいたそうです
しかし、その彼の変化はその後も継続しました。そして、その28才の彼が、支店の先輩と飲みにでかけた時に「仕事が楽しくなってきた」と話していたことがYさんの耳に入りました。
わずか数ヶ月で、若い社員から希望を奪い、どん底に突き落とすことで有名だった支店長兼、ダメエリア統括が、若い社員に希望を与える存在に変わることができたのです。
変化は、その28才の彼だけに留まりません。
マネジメント職になると、共通して経験するいくつかの壁があります。その壁のひとつは、自分よりも社歴が長く、経験も豊富な部下のマネジメントをしなければならないことです。
Yさんの大実験の中に、敢えて、その年上の部下を入れてもらいました。苦手な相手でも成果を創り出せなければ、再現性があるとはとてもいえないからです。
もちろん、実験をしていた年配社員にも変化が起こりました。それまで、自分の仕事が終わると、一言も発せずに退社していた、元支店長経験もある50代の営業職の男性。
4ヶ月目が終わる頃、若い社員達から、「その50代の男性からのアドバイスがとても役にたった」という旨の発言が、朝礼で聞かれるようになりました。
閉店時は、なかなか支店に戻れなかったYさんは、その50代の男性が後輩達にアドバイスする現場に遭遇することはなかったのですが、Yさんがその男性にお願いした「支店のお手本役をになって欲しい」ことを実践してくれていた結果でした。
50代の男性は、自分の仕事に集中し、周りのスタッフが明らかに困っている時はもちろん目に入ってないが如く、まったく関心を示していませんでした。
そして、若い社員が、この男性以外に頼る相手がいなくて、質問しても、露骨に嫌な顔をして、「俺に聞くなよ」という旨の発言をしていました。
それがまた、たった数ヶ月で、若いスタッフから頼りにされる人に変わっていったのです。
Yさんによれば、その50代の男性は、まったくYさんとは違うタイプの人で、変えることができるとしても、1年以上かかる覚悟でいたそうです。それが、わずか5ヶ月弱で実現してしまったのでした。
もしかすると、すごい稀に起こる事例をお伝えしているとお感じの方もいるかもしれません。しかし、これは、会社のトップである、社長が本気になれば、いつでも起こりえることです。
社長がこのプログラムを本気で取り入れて、自ら実践されるとき、オセロの四角を取ったような状況が生まれます。四つ角が白でになると、オセロの面はパタパタパタと白一色に変わります。一枚一枚、一進一退で白が黒になり、黒が白になり、を繰り返したものが、社長が4角を白にすることで、一気に変わるのです。
Yさんも、28才の男性も、50代の元支店長も、数ヶ月間で能力はほとんど変わりえない。社長自身もそうでしょう。唯一変えたのは、マネジメントの仕方。それまでの我流ではなく、成果がでる決まりきったマネジメント法をただ、そのまま実践するだけです。
これさえ、手に入れてしまえば、多くの組織の中で、問題になっている人の問題は氷解していきます。
どのくらいの期間で、どのように社員がステップアップするのかが読めるようになることです。
ところが、多くの会社では、いつになったら、社員が期待する成果を出せるようになるのか
全く読めない、こっちのほうが当たり前なのです。
経営というのは、先読みです。先が読めない人は経営が出来ているとは言えない。
にも関わらず、多くの経営者は、ことその問題が人のことになると、先読みができないことを当たり前だとして、半ばあきらめてしまっています。
ただ、やり方を知らないからそうなったのにも関わらず。それにすらにも気づいていない。そして、困った、困ったと、何年も、人によっては、十年、二十年唸っている。本当にもったいないことです。
さて御社はどうでしょうか?
若いスタッフにの希望を奪うYさんのような人はいますか?
もしそうだとしたら、いつまでその状況を続けていきますか?