コラム「組織の成長加速法」-第187回 驚異の売上1.8倍!若き社長が語るマネジメントの極意
私がF社長と初めてお会いしたのは6年前のことです。前社長であるお父上がセミナーにお越しになり、翌月から支援を開始しました。
その後もご支援を続け、5年で売上は1.8倍の48億円に達しました。前社長が最も心を砕いていたのは、当時取締役だったご子息のF社長のことでした。
前社長が40歳の時のお子さんであるF社長は、70歳で引退を決めていた前社長にとって、限られた時間で事業承継を進める必要がありました。
取締役時代のF社長はまだ20代後半で、新規事業の営業に全力を注いでいました。彼はまず、新規事業の成長を前年比30%で伸ばすことに集中し、エリア拡大に勝負を賭けました。 ターミナル駅を中心に半径15キロ以内に2店舗を出店し、一気に売上が増加しました。
しかし、F社長はこの時期を振り返り、「マネジメントの壁」に直面したと語ります。新旧メンバーの軋轢、営業と作業部門の軋轢が日増しに大きくなっていったのです。F社長は営業の次席と作業部門のトップに対し、マネジメント技術を駆使して対応を始めました。
半年後、F社長が手にしたものは、次の通りです。
まず、F社長は完全に営業から抜けることができました。一時は新規事業の8割の売上を上げていたのに、抜けても売上は下がりませんでした。
多くの経営者からも、この点は驚かれることになります。自分が想定していた引き継ぎ時間の半分以下になることがほとんどだからです。
もう一つは、作業部門の離職率を5分の1に減らし、生産性を1.4倍に引き上げました。これは、利益率の大幅な改善になりました。新しい風が社内に吹いたことで、「今まで通り」という基準ではなく、「その基準を見直すきっかけ」が生まれ、基準が動きだしました。仕事のやり方が変わったのです。
仕事の変革の中で退職者が出たのは作業部門でしたが、職人技が抜ける中でも納期遅れは一切ありませんでした。
改善が進むことを確かめた会長は半年間を待たずに、決断されました。
作業部門の部長、既存事業の取締役と部長2名もコンサルティングを受けることになりました。作業部門の生産性はさらに向上し、当初の1.8倍に引き上げられました。これが売上増加の原動力となったのです。
既存事業についても、支店長任せだった体制が見直され、共通の施策が実施されるようになりました。これにより、支店社員全員が他店との競争を意識し始めました。5年以上も停滞していた既存部門の売上が増加し始めたのです。
新しい店舗には既存事業も併設し、エリア拡大を進めましたが、当初は苦戦が続きました。しかし、これが幸いしました。F取締役が既存事業に支店レベルで関わることができたのです。
前社長は気さくな方で、ルールや規則に縛られないのがモットーでした。お客様を大切にするという考え方は、今も昔も変わりません。ただ、「大切にする」という概念が社員によってのズレが大きくなっていました。
当初は「常識の範囲内」という曖昧な基準が社内で機能していたのです。以前は、新しく会社に加わる社員も少なかったので、社員は、時間をかけてその基準をしらずしらず身につけていったのです。
ところが、大切にしてきた考え方の浸透が途切れてしまいました。一気に増えた新しい社員にはそれが浸透せず、社内でも軋轢が生じていきました。この軋轢は、マネジメント技術を導入することで解消されていきます。
新規事業では営業の手順、作業の手順、管理の手順が明確化され、支店を超えて同一手順で進行するようになりました。
一般的にこうした新しい試みでは、手順の設定までは進みますが、実践が伴わず頓挫することが多いのです。
しかし、マネジメント技術を使うことで実践が進みました。F社長は前職の会社でも、ベテラン社員が独自の非効率なやり方をして問題になっている事案を見聞きしており、それが自分の組織でも起こっていると感じていました。
F社長は今でも、「新規事業の展開加速はマネジメント技術によって生み出された」と断言しています。彼自身、2代目社長として、ベテラン社員のマネジメントに漠然とした不安を感じていました。しかし、今では50代の社員とのやりとりにも不安を感じることはありません。マネジメント技術の有効性を実感したからです。
F社長が先日こんなことをおっしゃっていました。「『マネジメントは技術です。誰がやってもそうなります。』と聞いた時、木村先生のことを『何言ってんのこの人!?』って思いましたよ。」といって大笑い。そして、「会長がつないでくれたご縁ですが、感謝しています。」と。
マネジメントとは組織を動かし、成果を出すためにあります。決めることはゴールではなく、実践が鍵です。実践できるからこそ成果は変わります。当たり前のことですが、成果が出ない時は組織の中でかけ声ばかりで進まない現実があります。
社員一人一人はいい人ばかりで、向上心もあり、成長が大切だという認識もあります。それなのに、組織の動きが変わらない時は、いつも同じ原因です。やり方を知らずにやっているからです。
この問題を解消するためには、リーダーが目の前の社員に、設定された「やること」を設定された通りに「やり切らせる」ことが必要です。そこに気合いや根性は必要ありません。リーダーには必要な経験や資質も不要です。社員にも必要な経験はなく、ただマネジメント技術を踏襲して進めるだけです。
前社長が退任される1年目のこと、銀座のホテルのレストランでの会食の機会がありました。乾杯の際に、杯を上げておっしゃいました。「まだ(70歳過ぎても)数年は併走しないといけないですが、間に合ってよかったです。」と。
ゼロから事業を興すバイタリティーと強烈な個性を持つ創業社長の言葉の力は、多くの人を動かしてきました。2代目、3代目の社長にはそこまでの強烈な個性を持つことは稀です。それでも尚、組織に活力を与え拡大していくためには、集団を把握する力を持つことが必須条件です。
創業社長の後、2代目社長が引き継ぐ際に言われることは、「しばらくは集団統治の時期になる」です。集団統治の前提でも社長は各々の事業のトップを動かす必要があります。このような場面でこそ、マネジメント技術が力を発揮します。
相手が自分が全く知識のない専門家であっても、必要な成果に向けてその専門家を動かす力、それがマネジメント技術です。未来を今すぐ変えていきませんか?