コラム「組織の成長加速法」-第181回 顧客への提供価値を高める社員を増やす企業だけが生き残る
リーマンショックの時、同業他社が軒並み、下方修正。中には倒産する企業もあった中、金融業のその会社は、何一つ慌てることがありませんでした。それは社長だけではなく、社員も一緒だったのです。なぜそうなったのか?
やるべきことが明確だったのです。ただ、やったことは単純です。
「今、顧客は何を求めているのか?」「その問題を解決するためには何をするべきなのか?」の2つだけを徹底して実行しただけでした。
しかし、私がお手伝いを始めた当初は、社員の方々は、顧客の要望も、希望も、考えていなかった、それどころか、聞き出す力さえもありませんでした。
当時、顧客の要望、希望、願望を聞き、常に考えていたのは、社長お一人だけでした。その会社は結局10年間お手伝いをしました。理由は、ご支援するほどに、売上げも、利益も上がり続けたため、社長が強く希望されたからです。
中途採用も、新卒採用も、強化していたので、新しい社員がドンドン入社していました。そのため、当初は、役員と営業本部長のみの予定でしたが、組織全体の生産性改善を早期に実現するため、部長、課長と順々にご支援を広げていきました。営業部門の生産性を上げること、成果を上げ続けることは、マネジメント技術でもっとも効果性が高く、売上げに直結します。
その後も、H社長とは時々お会いするのですが、ここ4-5回は、いつも終わりが同じ展開です。
「先生、言葉は悪いですけど、今までで最高の利回り商品は、木村先生でしたよ。ビットコイン以上じゃないかなぁ・・・」と。そして、続けてこういいいます。「あれから、新しい社員も増えたので、また御願いできませんか?」
そして、私が言う言葉も同じです。「もうH社長のところは必要ありませんよ。○○さんも、○○さんも、○○さんもいるじゃありませんか!?」というと、社長は満面の笑みで、おっしゃいます。「それもそうですね」と。
「伝説の営業マン」という異名を持つほどの、超・営業マンでらしたH社長は、一見すると、調子が良い方のように感じる方いらっしゃいます。しかし、中身は全く違います。
常に一歩、二歩、三歩先を読み、冷徹に分析した上で、行動されています。このことは、役員の方々は、よくご存じです。「あれは、もう真似できません。」と皆さんが同じことをおっしゃいます。
同業他社が、リーマンショックで軒並み業績を落とすなか、その年も12期連続増収増益で乗り切ったのは、偶然ではありません。先読みする力、冷徹な分析力、そして容易周到。どれを言ってもピカイチの方ですが、それを普段は全く感じさせない。まさに、超・営業マンなのです。
もちろん、H社長が真剣に話されていることもあります。そんな時には、「マネジメント技術なしでは、これをなし得ることができなかった。」と断言されます。H社長曰く以前の状態では、「7期連続増収増益の実現すら難しかった。」とおっしゃるのでした。
H社長がおっしゃるには、「若い社員がお客様の要望をしっかり聞けるようになる。」「お客様の言葉の裏にある、本当の悩みを聞けるようになる。」ことを実現出来たことが大きな成果に繋がった。それができると、「一体どうやったら、お客様がより安心して、未来に希望を抱いて進んでいただけるようになるだろう?」と創意工夫に繋がる、とのことでした。
まさに、以前は、これを社長お一人で考え、お一人で、それを実行に移されていたわけです。ところが、マネジメント技術を使うことで、一気に、2年目、3年目の社員達にも、同時にこの力をつけさせることができるようになったのです。
ご支援開始してから、3年目が過ぎた頃のこと、H社長がしみじみおっしゃったことをとても鮮明に覚えています。「木村先生、お陰様で、他社や、お取引先から、『どうやって、あの若い社員達が契約できるように教育しているのですか?』と言われることが増えてきました。私はその時に言っています。『教育も大切ですが、それよりもマネジメントが大切なんですよ。』と。」「するとねぇ。みんな同じような顔するんですよ。キョトンとした顔してねぇ。」といって、H社長の顔は、すっかりいたずらっ子の顔になっていました。
顧客への提供価値を上げるためには、2つのことが重要です。
一つ目は、お客様の期待していることを正確に理解することです。そのためには、顧客の本当の悩みを聞き出せる能力が必要になりますが、これが出来るようになるためには、一つ大きな壁があります。それは、お客様のことを心から心配できるようにならないと、お客様の言葉を聞き逃してしまうのです。
もちろん、相手が若い営業マンの場合は、まず、必要な事実を聞き出す訓練をします。H社長の会社の場合は、営業未経験の新卒2年目、3年目の社員が対象でしたから、この事実を聞き出すだけでも、最初は一苦労でした。しかし、これはどこの会社でも行っています。
一方で、契約率は事実の聞き取りの精度だけでは、大きな差が生まれません。成績が良い営業マンは、もう一つ重要なスキルを手にしています。それは、お客様の心情に寄り添うことができることです。そこで、この心情に寄り添うことができる訓練をしていきます。この訓練は最初からうまくいきませんでした。若い営業マン、経験値が浅い営業マンは、お客様の心情を聞き逃してしまうことが多かったのです。
本当の人の悩みを聞き出すことが必要だと多くの営業の本には若い社員が後者の技術を身につけることは難しいとされています。
ただ、私は、他社の営業マンの支援をしていて思いますが、決してこの点は難しくないのです。多くの人が難しいと感じるのは、要素分解が足りないことに原因があります。この点は、練習が必要ですが、技術は確立しています。
要素分解の手法を獲得すると、相手を動かすことが一気に容易になっていきます。私が、入社2年目、3年目の若い営業社員を、他社の営業責任者が目を丸くするほどの成果に導くことができたのは、この手法を使っています。短期間に驚くべき変化を意図して実現させることができるようになるのです。
相手が誰であっても、成果に必要な行動言動を特定し、それを身につけさせることができるようになります。このようにして、お客様の本当の悩み事を聞き出すことができるようになります。
次に大切なことは、営業職の問題解決能力を上げることです。お客様の問題を解決することが、全てのビジネスの基本です。営業職は、組織を代表して、お客様と直に接して、問題解決に取り組む人です。
問題解決のためにやるべきことは、それがどんな問題であっても同じフォーマットで実現できます。まず、現状と理想の状態のギャップを明確にします。そして、そのギャップを埋める施策を考えます。そのためには、思考の幅を広げ、そして深く思考し、そして具体策をひねり出す。
MBAのクリティカルシンキング、課題解決能力では、小難しい言葉を使って説明していますが、やっていることは上記と変わりません。
問題解決能力というと、少し難解なイメージを持つ方はいるかもしれませんが、目標を達成する人は誰でも自然に身につけているのです。それを意図し身につけようと要素分解すると、先ほど記した内容を一つ一つ出来る状態になるのです。
この問題解決能力を社員が着実に身につけること。これをマネジメント技術の重要な機能と位置づけています。これなくして、企業の繁栄はあり得ないからです。顧客提供価値を企業の規模の拡大と共に実現することがなければ、組織の成長力は必ず低下していきます。
「考えろ!」と怒鳴ったところで、「考える」訓練が日頃から出来てない場合は、無理な相談です。企業の強さの源泉をマネジメント技術を実践することで、日々鍛える。だからこそ、マネジメント技術が浸透した企業は、環境変化の大風にはしなやかに対応し、受け流し、そして、その風を利用して、一気に勝機に向かって駆け上がる。
H社長の満面の笑みは、H社長の先読みを実現するべく、意図的に創られたしなやかな組織の成果に裏打ちされたものです。