コラム「組織の成長加速法」-第87回 頑張り過ぎる社長が抱える2つのリスク
次々と買収案件が持ち込まれるて困ったよと言いながら、やはり少し嬉しそうな顔も見え隠れする知る人ぞ知る、凄腕経営者のY社長。
数年前にお会いした時は、急拡大する組織を前に、自分のやり方を変えようと試行錯誤を
されていた頃でした。
ある時、役員の方々に対するコンサルティングの報告が終わると、待ちきれなかったと
言わんばかりに、Y社長が話し始めました。
「ちょっとマネジメントの仕方を変えないとと思っているんだよ。木村さん。」
「今まで自分は、全部、全部、全部に目を通してきた。でも、もうできないんだよね。」
「これ以上続けると、自分のせいで、成長が遅くなる、」
「もういくつかの会議は出ないつもりなんだ、議事録だけ流してねっていってさ。」
これに続けて、社長は、この前はこんなことがあって、あの時はあんなことが起きて、、、と具体的な事例を上げながら、社長が葛藤している内容をお話くださいました。
社長が組織を引っ張る。これは会社を立ち上げてから当初からしばらくの間、どんな企業でも起こること。社長がバイタリティーにあふれていればいるほど、20億、30億と規模が大きくなっても、社長が顧客とのやり取りに目を光らせ続けます。
他の役員や、部長に任せようという気がないわけではないのですが、結局、役員や部長を飛び越して、役員、部長以上に口を挟み、指示を出してしまいます。数度同じことが起きると、他の役員、部長は、社長に遠慮して、ものを言わなくなります。
こうなると、元に逆戻りです。社長が細々としたことまで把握し、そして、それ故にそのことで社長の時間は、忙殺されていきます。短期的にはいいことでも、中長期で考えるとマイナス面が目立ってきます。会社が大きく飛躍する機会が失われていくからです。
この状態でも、70-80億円までいってしまう企業もあります。すると「類い希なるリーダーシップがある経営者だ!」「カリスマ経営者だ!」ともてはやされるのですが、その後が大変です。
筋肉が全部贅肉にかわってしまった元体育会系のおじさんに、「元々おまえは体育会系なんだから、100m 12秒台で走ってくれ!」といって無理矢理スタート地点に連れて行き、100mに挑ませたら、きっと30mも走らないうちに、足がもつれて、すっころんでしまいます。
一度は体に染みこんだことであっても、やらない状態が長くなると、動けなくなってしまします。これと同じことは、幹部社員にも起こります。ずっと社長が現場を仕切っていると、社長がバトンタッチしようとした時に、動けない幹部社員に愕然とするのです。
社長にしてみたら、「ずっと横で見てたし、一部始終を共有していたから当然できるでしょ!」と思ってバトンを渡すわけですが、走っていたのは社長だけで、幹部は走ってなかったことが明らかになります。横では見ていたのですが、自分では動いていないので、まるで身についていないのです。
会社のステージを上げるためには、今の社長自身の仕事は全部、幹部に移管する。会社規模が大きくするためには避けては通れないことです。
同じことは、幹部にも当てはまります。社長の仕事を役員が肩代わりするためには、役員が部長に仕事を渡さなければならないのです。
社長から役員への権限委譲が進まなければ、組織全体が権限委譲の経験値が上がらなくなってしまう。文字通り組織全体が硬直化して、組織そのものの成長を阻害する原因になります。
問題は、これだけではありません。会社の規模が多くなればなるほど、権限委譲による経営リスクが大きくなっていきます。このリスクを軽減させるためには、社長も、幹部も権限委譲の経験値を増やすことです。
社長が無自覚に自分のスタイルを続けていることで、この権限委譲に伴う2つのリスクを増大させていくことになります。もちろん、社長には社長の理由があります。それも事実。ですがリスクの増大もまた事実です。
会社のステージが上がれば、社長の仕事を意思的に変えていく。この意識を社長は常にもって
いなければなりません。
今やっている仕事を、○○までに一部もしくは、全部任せていく。社長という生物の寿命を超えて、組織を存続させるために、意図的に行うべきことは、計画的な権限委譲です。
御社には、権限委譲の計画があるでしょうか?
今の仕事をいつ全部、幹部に渡しますか?