コラム「組織の成長加速法」-第165回 自立した社員を増やす方法を知っていますか?
知人の紹介で、ある社長と東京駅から数分の、静かなレストランでお会いしました。
ご挨拶を済ませて、席につくと、Y社長は、開口一番、「早速なんですが、状況を説明させていただいてもよろしいでしょうか?」と、会社の状況をお話しくださいました。
製造部門には、社長が全幅の信頼を置く、常務がいらっしゃいます。ここ10年で品質改善も進み、生産効率も上がっていて、同業他社のみならず、他県の他業種からの工場見学の依頼がくるほどになっているそうです。
一方、社長が困っているのは、営業部門のことでした。
営業部門には、管掌役員である取締役、部長1名と課長3名が管理職として、総勢40名を超える営業部門を支えているそうです。ところが、日々の業務が部長、課長の1名に集中しているとのことでした。
この状況が数年年続いていて、このところ、売上げの伸びが鈍化していることの原因だと考えているそうです。
社長がお考えの原因は、課長3名の内、一番優秀な課長1人に仕事集中していていることです。この点は、何度も指摘をしているものの、改善が進まないとのことでした。
一通り、お話を終えると、Y社長がぼそっと言われたたのです。
「製造部門はの社員は自立している者が多く、表情も良いのですが、営業部門は、その逆で、課長達1名に完全に依存しています。表情も暗い者が多いのです。」
実際、製造部門の離職率は、心配したことはないそうですが、営業部門は、ごっそりと辞めてしまうことがあり、心配が尽きないとのこと。
それがまた、課長一人に集中しているようだとのことでした。営業部門をまとめる取締役については、Y社長も一目置く、業界に幅広い人脈を持ち、創業以来の大功労者であり、Y社長も遠慮があるようでした。
ほとんどの組織の問題は、一人一人の社員が自立して、自ら課題を考え、解決に向かって全力疾走、となれば、全て解決します。
しかし、多くの企業の実態は、課題解決出来る人の方が、圧倒的に少数派です。課題解決する人が、組織の成長と共に増えることがなければ、Y社長がお感じになっている問題をかならず抱えることになります。
では、自立させる方法はないのか?
この方法は、すでに確立しているのですが、多くの企業がこのやり方を知らず悩み苦しんでいます。
「自立しろ!」「自立が大切!」「自立、自立、何が無くてもやっぱり自立!」と唱えてみたところで、自立は実現しない。
自立のためのステップがあります。
依存状態からいきなり自立にはなりません。ステップを踏まなければ、自立はあり得ない。この手法は、拙著、「社長の意図通り社員と組織を成長させる仕組み」にも書きましたが、「自立」の前に「自考」が必要です。
マネジメント技術を実践することで、自立する社員は、意図して創ることができます。だからマネジメント技術を扱える社員の数が増える分、自立する社員が増えるのです。
もちろん、少数ですが、一定数、自然に自立していく人はいます。ところが、「自立した社員が多くて内は困っている」という社長にお会いしたことはありません。
どちらかというと、「言われたことしかやらない」「自分で提案しない。」「すぐに聞いてくる。」ということで悩まれている方がほとんどです。
Y社長も同じく、製造部門は、自立した社員は多いのに、営業部門は、部長、課長1名に言われた通りに動く社員ばかりで、会議の席でも、部長と課長1名以外からの発言がないことに心配している状態です。
製造部門の横展開が可能ならば、私がお手伝いするべくもないので、製造部門の社員の多くが自立するに至った経緯を確認していきました。
すると、Y社長は、「(製造部門の)常務は人の使い方が上手なんですよ。昔から。」というお答えでした。そこで私は、製造部門を管掌されている常務にお話を伺うことにいたしました。
常務に確認しても、「特別なことはしていない。」「自ら自分事として、考えるように常日頃から伝えた結果だと思う。」というお話でした。
社長からも、常務にはいつも相談しているとのことでしたので、営業部門の状態に関してのご意見を伺うと、「あぁ、そのお話ですね。もう何度も(営業部門の取締役には)伝えましたが、聞く耳を持たないですよ。」とのことでした。
社内のある部門では、社員が育ち、他の部門では、うまくいかない。これも多くの組織に見られる風景です。
そして、Y社長のように、うまく言っていることを横に展開しようと、考えるのも同じです。ところが、これがうまく進むことはまずありません。
なぜならば、真似できる形になっていないからです。
製造部門の常務が、自立する組織ができあがった理由として挙げたのは、「自ら自分事として、考えるように常日頃から伝えた結果」ということでした。
確かに、その通りなのでしょう。しかし、これは、結果論で、方法論は何も語られていません。「自分事として捉えろ」というのは、「自立しろ」というのとほとんど変わらない。これは、精神論の類いの扱いを受け、多くの社員は受け流してしまいます。
精神論で奮起する社員もも一定数いますが、再現性が高いとはいえません。変化のスピードの速い、今の時代に、臨機応変に組織を動かすためには、これでは、不十分なのです。
現に、Y社長の会社では、「自分事として捉えろ」では、何も変化が起きなかったのです。
真似できる形というのは、文字通り、誰もがその通りやれば、同じような結果になることを指します。
私達はこれを技術と呼びます。
技術になっていれば、それがどんなものであれば、横展開は容易なのです。
多品種を扱う会社において、商品開発や、生産管理の手法は、部門を横断して共有されるケースは少なくありません。方法論が確立しているからです。対象が物であれば、社内でも方法論の開発は容易です。
一方で、マネジメントの場合は、対象が人になります。マネジメントする立場から相手の思考は見えないために、この方法論の確立を一企業単位で行うことは、時間が掛かりすぎるのです。
ところが、分かってしまえば、驚くほど簡単な方法で、社員の自立を創ることができます。この長い時間は掛かりましたが、試行錯誤の末に、誰でも真似できる形、誰もが相手を自立させる方法論はすでに確立しています。
手法を学んでしまうことで、一気に組織の風景を変えることができるのです。
もし、「自分事として、問題解決出来る社員が少ない。」「いわゆる自立した社員よりも、依存した社員が多いと感じる。」こんな時は、できるだけ早く、マネジメント技術を導入して、組織を変えてしまうことをオススメします。
会社の将来は、自立する社員が創られることで、驚くほどの変化を遂げるからです。