コラム「組織の成長加速法」-第124回 組織を潰す○○な文化
神奈川県で2代目社長として30代後半で社長を引継ぎで7年目のY社長。先代の番頭さんも引退し、自分の子飼いの部下を一人取締役にあげ、自分のやりやすい経営環境も整ってきました。
その一方で、祖業であり、一番の柱である事業は、人口減と共に、将来の需要の先細りは目に見えています。来たるべきM&Aの時代を勝ち抜くべく、今から営業も、技術部門も強化したいと、Y社長が弊社にご相談にみえました。
お話を伺っていると特に気になるのは営業部門ということでした。何でも先代のこだわりで商品力を磨き続けた結果、業界では珍しく、指名買いでいらっしゃる顧客もいるとのことでした。喜ばしいことでもあるのですが、営業部門にとっては良いことばかりではなかったそうです。Y社長曰く、商品力にあぐらをかいている状態から抜け出せないとのことでした。
後日、Y社長同席いただき、社長より一つ年下の営業部長から話しを聞いてみる機会がありました。真っ黒に日焼けして、笑うと白い歯が並んでとっても豪快な笑い声を出す部長は、まさにザ、営業部長という印象でした。
早速、私の方から、部長に現状の認識、今後の課題、その課題への対応策に関して質問すると、間髪を入れずにお応えをいただくのですが、その答えの内容はどれも全く要領を得ません。将来の事は仕方がないとしても、今問題になっている予算未達な状態をどのように回復していくのかの打ち手すら具体的な答えは何ひとつありませんでした。Y社長が心配するのも当然だと思ったものでした。
ところが、私が驚いたのは寧ろその営業部長とのやりとりの後のことでした。営業部長が退席された後に、社長と打ち合わせを続けました。当然、営業部長とやり取りの話になったのですが、Y社長は営業部長の答えに大変満足された様子だったのです。
Y社長曰く「(営業部長が)あれだけ考えてくれているのなら、社長が営業部長に抱いていた、物足りなさは、杞憂にすぎなかったかもしれない。」という感想。
私もY社長とお会いしたのは、その時が2度目でしたので、あまり失礼の無いようにと、「営業部長とはその時が初対面なので、私の勘違いがあるかもしれない」とお伝えした上で、話を続けました。私が営業部長との対話で違和感を感じた部分に関して、率直にお伝えしました。営業部長が言った言葉をそのまま使いながら、社長に「(営業部長が答えた○○に関して)これはどういう意味でしょうか?」「あれは何をするということでしょうか?」と問いかけていきました。すると、社長からは、「あれはこういう意味だと思う」「それはこういう意味のはず」という返事が帰ってきます。
そこで私は、実際にその時に伺った数字との整合性のズレを指摘しながら、「私は○○という風に受け取りました。」「私は○○の可能性もあると思います。」とお伝えしていきました。
すると、Y社長は最初、首をひねりながら聞いていましたが、最後には目を丸くして、「確かにそうですね。」と。
そこで、私が違和感を感じた点、2つ3つ、Y社長から部長に対して、再度確認いただくようにお願いして、その日はお別れしました。後日、Y社長からメールがあり、案の定、実際は
「(営業部長の言った言葉とは裏腹に)行動が伴っていなかった」「改善しながらやると言っていたが、結局同じことを繰り返していた」といった報告を頂きました。
この営業部長とY社長は、Y社長が社長に就任する前から10年以上のつきあいで、社長は営業部長ことをとても信頼していました。苦戦してはいたものの、社長のアドバイスも素直に受け取り、積極的に取り組んでくれているとばかりY社長は思っていたのです。
組織の成果が上がらない場合も、組織で成果が上がっている場合も、かならずその原因があります。組織で成果が上がっている場合は結果オーライでもいいのですが、成果が上がっていない場合は、その原因を知り、対処しなくてはなりません。
ところが、今回のように、その問題の本当の原因が、組織の中には見えにくい場合というのがあります。Y社長は、7年の間に財務体質を整え、M&Aの具体的な準備まで進めてきた方で聡明な方でした。そんなY社長をしても、組織の内の人は、慣れっこになっていて、見過ごされてしまうわけです。
以前、スポーツの海外大会で、日本のサポーターが応援スタンドの掃除をすることが、開催地のメディアで話題になったことがありました。海外のメディアがそうしたことを取り上げられるようになって初めて、それが如何に特別なことなのか、日本人は初めて理解しました。
小学校から掃除がまるで必修科目のようになっていて、ゴミを持ち帰るということがいわば当たり前になっている我々日本人にとっては、メディアに取り上げられるまで、それほど特異なことだとは思っていませんでした。
これと同じようなことが企業の中にもしばしば起こるのです。
成果を上げない状態が続く組織に一つ共通するのは、曖昧さが許容され続けていることです。マネジメントが機能してない場合は、この状態が放置されることになります。なので、リーダーが曖昧さに違和感を感じなければ、そのリーダーの組織で成果が出ない状態が続いてしまうのです。
社長の目には、社員は誰しも頑張っているように見えているのです。しかし、詳しく見ていくと、間延びした頑張りであったり、工夫がなくただただ同じ事を繰り返していたりしています。過去の延長でなんとなく、惰性のまま同じことを繰り返している場合が多いから、成果が悪いままなのです。
状況が変わっても、何か新しい手を打っているようで、実はスローガンのみで終わっている。今回のように、工夫すると言いながら、まったく過去と同じことを繰り返しているに過ぎない。反応が落ちている媒体を漫然と使い続けている。毎年同じような問題に遭遇しながらも、結局改善されないまま、また同じ問題に遭遇して右往左往するなど。。。
組織は行動を作り出すマネジメントのやり方の導入で驚くほど成果を変えることができます。
社員に新しい行動を取らせるための鍵は、相手にとって具体的な指示を出すことがまず第一です。そして、実際にとった行動を確認すること。行動できなければ、行動できるために何が必要かを具体的に、更に具体的にしていくこと。そしてまた確認。これを繰り返すだけで、組織は必ず変わります。
方針や、スローガン、意欲を軽視しているのではありません。方針も、スローガンも、意欲も大切です。しかし、成果を生み出すには、それらだけでは十分ではありません。
当たり前なのですが、成果を変えるためには、行動を変えるしかないのです。もし、部下の行動を変えられなければ、部下に成果を上げさせることはできません。
マネジメントの現場では、耳に心地よくても、曖昧な言葉の羅列を放置することをしてはならないのです。
さて、御社では如何でしょうか?
リーダーは行動を生み出しているでしょうか?
それとも、曖昧な指示でお茶を濁しているでしょうか?もし、後者の場合は、曖昧さが御社の組織文化になっていませんか?