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代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第164回 「成長の実感」こそが離職を止める

 

関東圏にある60名規模のIT企業のH社長から優秀な社員の離職の問題を相談されご支援した時のことです。

H社長が、ご相談にいらした時、冒頭にそのH社長がおしゃったことが「給与が低いっていっても、大手のように給与を上げられないですから、もう困り果てまして。」でした。

意気消沈されている様子でしたが、少しずつこれまでの取り組みをお伺いすると、ここ数年必死に取り組みをされた内容を聞かせてくださいました。

・社員が孤立しないように交流会のイベントをやった
・相性の問題が影響しないように、スキルアップの勉強会を増やした
・評価制度を変えた
・ミーティングのやり方を変えた
・日報の書き方を変えた
・目標の設定の仕方を変えた
・給与制度を変えた
・ベースアップを実施した
・残業時間を減らした
等々

ところが、H社長には、改善の兆しが見えていないとのことでした。

社内の重苦しい雰囲気は変わらず、月1回の戦略会議で前向きな発言は聞かれず、結局、離職率も高止まりというのです。

現場では、離職が継続した結果、技術の維持、継承が難しく、以前は起こらなかったようなクレームをも顧客からいただくようになり管理職は、クレーム対応で疲弊し、悲鳴が聞こえてくる状態。

そんな中、H社長がセミナーにお越しくださいました。


土曜日に夜にオンラインでお話させていただき、すぐにプログラムの開始を希望される旨、希望を受け賜りました。

ただ、私は、少々気になることがありまして、H社長に一つ御願いをしました。主任や入社3年目の方々、5名の方とお話する機会を得ました。

社長は情報量をもっとも多く持っていますが、こと社内の諸問題に関しては、社長にもっとも情報が届いてないことがしばしばです。

組織の規模が大きくなりますと、情報は社長に届くまでに、何人もの人がその情報にフィルターを掛けていくことになります。

トップダウンの情報が組織の末端に届くときに、まったく別のものに伝わってしまうように、その逆もしかりです。


その結果、新しい施策の中で現場には実施されていないもの、目的とは違う形で捉えられているものがあることがわかりました。

例えば、
・社内交流会は、9割の参加者は強制参加となっていてイヤイヤでやっている
・スキルアップの勉強会は、ただ、本の朗読のようになっている
・ミーティングのやり方は、元に戻っている
・日報の書き方は、気づきを促すことを目的にしたものの、
 毎日新しい形式に合わせて、同じ内容を書いている
・目標設定は確かに研修でやったものの、覚えてない
・ベースアップはあったが、当然のこと、むしろ遅いくらい

一つ良かったのは、残業は、目に見えてではないものの、以前よりは少し早く帰れてよかった
というものでした。

折角、時間とエネルギーをかけても、正しく運用されなければ当然、狙いは達成されません。

それどころか、マイナスにも成りかねないことは、この事例からもわかります。実際に、5名中4名は、組織の未来に希望を抱けないという解答だったのです。


H社長には、ヒヤリング内容を共有させていただきつつ、折角導入した仕組みを活かせる状態を創ること、中核となるリーダーの育成をすること結果的に離職率が低下することをゴールにプログラムをスタートしました。

プログラムが始まり、核となる幹部と次世代若手リーダーが、成長マインドに切り替わっていきました。

成長マインドとは、成長することが当たり前で、成長しないことが不自然なことという考え方です。

このマインドの定着の実践として、導入で失敗した仕組みの運用をすることにしました。

新しいものを拒絶するのではなく、まず試して、改善して、より良いものにしていこうの実践として、新規導入のシステムを動かしていくプロジェクトを立ち上げたのです。

どれも動いていなかったのですが、全て同時に進めることを辞めて、一つずつ、重点的に取り組むことにしました。各プロジェクトの時間を決めて、前にすすむことにしたのです。

結局2つを除いて、次々と成果を上げるようになりました。会議では、アイディアが、サブマネージャーからも提案されるようになりました。

アイディアの中からは改善行動が決定されて、改善が達成される状況までプロジェクトメンバーえ確認を繰り返していくようになったのです。

社内がミルミル動き始めました。社長は大喜び、幹部は、びっくりです。

実行することに決まったものの中で、一番時間が掛かったのが社内交流会でした。社内交流会は、試行錯誤が続き、半年間で最終形まで行き着きませんでしたがその後、この交流会が若手が自分の未来像を描く場になっていると聞きました。

もともとの狙いよりも更に高度な課題をクリアすることに変わったのです。


この中心となったメンバーを育成したのが、常務、取締役2名によって、成長支援を受けた若手リーダー3名です。自分史上、もっとも成長した半年間になったと異口同音に振り返っています。

実際、3人が担当した案件では、チーム内で、分業、権限移譲が進み、チームミーティングでは、先ほども書いた通り、アイディア飛び交う状況が生まれたのです。

受託開発業務を担当していた2つのチームは、継続の受注も獲得し、過去最高の売上、利益を達成しました。

社内の品質管理チームでは、部下の改善提案から、品質管理の新しい仕組みが誕生し、上級のSEによるチェックと同等の品質が、中堅クラスでも確認出来るようになりました。

これにより、上級SEは、新規プロジェクトの企画運営に携わることができるようになり、全社ベースの新規プロジェクト規模の最高記録更新につながりました。


明るい未来を社員に提示することはできても、それを実感させることは、口で言うほど簡単なことではありません。

一方で、改善計画が明確になり、それが徐々に実践されることを見たり、それに参加することで、多くの社員が、組織の進化、成長を実感することになります。

半年後、若手リーダー3人の目は、輝いていて、表情も明るい。
・自分達が会社を変えていけるという実感を持てた
・部下を動かすことができた
・未来はよくなると思えるようになった
等々
半年間で激変です。

もともとH社長が心配されていた離職率はどうなったかというと、プロジェクト開始から2年目には、離職率が1/5となりました。

当初社長が相談に訪れた時、離職率の改善が大きな理由でしたが離職率が下がるばかりか、売上げも利益も、社内の士気も大幅に上がるということを実現したのです。

今回の事例は、IT企業の事例ではありますが、社員が成長を実感することで、社内の雰囲気は一変します。

全ては、マネジメント技術こそが、未来を変える鍵となるのです。