コラム「組織の成長加速法」-第78回 社長は経験談ではなく○○を語れ!
特殊なサービスを提供して業界から注目を集めている創業8年目のM社長が弊社にご相談にみえたのは数年前のことです。
幹部の離職が相次いでいることに対する不安を口にされました。「創業から一緒のメンバーが去るのは、残念なことではありますが、会社の発展する上では仕方がないことと割り切っています・・・」と。ご自身を説得するようにと話されていたのがとても印象に残っています。
原因がわかればその問題は解決するとは限りませんが、解決に向けた取組はできます。原因を特定しようと、様々なお話を伺っていると、一つの問題が浮かび上がってきました。
それは、「会社の強み」「会社の魅力」の根幹となる「理念」が不確かなことでした。「理念はあるにはありますが、、」というM社長の言葉に象徴されるように、M社長自身ですら、まだ明確になっていなかったのです。
「そろそろ見直さないといけないとは思っているのですが、、、」と当時のM社長。「理念は大切だ」と思っているものの、見直しを考えてからなかなか先に進まない状況にありました。
私は以前、1年半で売上7億円が140億円に激増する時期をあるベンチャー企業で経験しました。その時に様々なことを学びましたが、その一つが企業理念の大切さです。その会社で、企業理念というものが、どれほど組織に大きな影響を与えるかを実感しました。
その後もベンチャー企業を数社経験するわけですが、どの創業者も理念の力に注目し、その力を利用する人達ばかりでしたので、私はてっきり創業社長というものはそういうものだと勘違してしまいました。
ところが、コンサルタントとして、150社近い社長とお逢いして、分かったのです。理念に対する温度感は、経営者によって千差万別。創業経営者といえど、理念が深く浸透することによる変化を経験したことがない方はその力がやはり理解できないのかもしれないと考えるようになりました。
冷静になって考えれば、「理念こそ全て!」と言ってはばからない経営者の元で何社も経験すするほうが異常な体験なのです。とはいえ、何社か体験したからこそ、更に分かったこともあります。それは「理念を浸透させること」は再現性のある方法があり、「それによってもたらせる効果」もまた再現性あるのです。
ですから、「組織の成長を加速させたい」と弊社へご相談に訪れる経営者の方には、理念の重要性をお伝えしています。
どこの会社の理念も額縁に入って掲げられていますが、理念は社員に見えるだけでは意味がありません。「理念を徹底してる会社」は「理念、行動基準」が額縁から飛び出している会社です。
理念、行動基準が仕事の中で活かされている企業の場合、共通しているのが、社員が日々、理念、行動基準に触れる機会があることです。朝の唱和に始まり、会議の席での社長の発言、マネジメントの現場で行動基準に基づいた指導等。
更に、上級バージョンがあります。というのも、朝の唱和を実行している会社は多いのですが、これだけですと、取組が形骸化していきます。そこでオススメしているやり方は、社員一人一人が、自分の個人の体験に理念を落とし込んで、毎日誰かが発表をするという方法です。すると、他の社員は、「それも確かに理念の一つに結び付いているな」と、自らの行動を振り返るきっかけになります。その結果、社員同士が自分の日常の業務と理念を結びつける機会が増えていきます。
一方、経営者の方々の中には、理念を伝えていると言いながら、自分の経験ばかりを伝えている人が少なからずいます。3割ほどの創業経営者の人達がこれに該当します。
創業経営者にとっては、理念と自分の経験は、重なりあっていて、ほぼ同一のものなのですが、聞いている側にとっては、同一ではありません。経営者の経験談は、自慢話に映ります。
そういう経営者の方々は「話せばそれだけで十二分に分かってもらえる」という方が多く、そもそも「理念」「行動基準」を明文化されていないことも少なくありません。
以前、ご相談にいらした70人規模のIT企業の全体会議に出席をしたことがあります。そこで行われていたのは、ひたすら社長の経験談が共有でした。その会社の理念は小冊子形式になっていて、全員が携帯することになっていたのですが、滅多に見返すことはないお飾りになっていました。
後で社長に確認をすると、「理念」は小冊子で渡しているので、もう話す必要は無いというもの。ところが理念は、その字面をいくら覚えたところで、意味がありません。如何に社員の行動の基準として、浸透するかが勝負です。ですから、「理念」は、渡して終わりではなく、浸透させるために、話は切り口を変えて何度でも伝えるべきものです。
冒頭M社長の会社では、幹部の方々全員で合宿をして、理念と行動基準をまとめ上げて頂きました。M社長が、見直そうと言い始めて合宿にこぎ着けるまで、2年が経過していました。
理念が再定義されるまで、M社長は、理念よりも、自分の経験値の共有が多かったのですが、
常に理念に関連した話を会議の場で共有するようにもしていました。
「1年目はほぼ何も変化が感じられませんでした。」当時を振り返って、M社長が答えてくれました。それに続けて「実は少し後悔したんですよ。かけた時間と労力は適正だったのだろうか?」と自問した時期があったことまで話してくださいました。
一方、2年目には、部課長の退職率はゼロとなり、一般社員の離職も1/5に減りましたので、業績も急改善したのです。
その後、M社長の会社以外でも、「社長が理念を何度も語る」を実践して頂きました。その結果分かったのは、「社長が理念を語り始める時、組織には必ず大きな変化が起こること」です。ただ、成果がでるまでは、ひたすら平坦な道のりです。「大きな変化を信じて、あきらめずに行うこと」です。是非実行してみてください。