コラム「組織の成長加速法」-第167回 社員の時間を活かせば組織の成長は実現する!
コロナ以前に、3年間ご支援をしてきた企業があります。社長お一人のご支援から始まり、執行役員3名の方々の部門支援をしてきました。ある時、社長から電話が掛かってきました。留守電のメッセージを聞くと、「相談があるから至急時間が欲しい」とのことでした。
お電話を折り返すと、執行役員であるF本部長の件についての相談でした。「これまでは、あいつの言い分を聞いてきたが、今回は、私がアイツを説得するから、(コンサルティング)を御願いしたい」とのことでした。F本部長は、直属に担当部長を4名、組織全体含めると68名を従える、年間100億以上の売上げを上げている部門のトップの方でした。
この会社には、営業に関わる執行役員が4名いました。最後の一人の執行役がF本部長です。社長曰く、F部長の部門のみが半期決算で、昨年対比を15%も割り込んでしまった、とのこと。F本部長の部門が最大部門のため、他の3部門が昨年対比二桁上昇を実現出来ているにもかかわらず、全体としては、5%のマイナスになったとのことでした。
社長も継続的に私の継続的にコンサルティングを受けられていたので、相談に乗ることになったのですが、当初私は、お断りしました。理由は、F本部長への指導は、私よりも、社長から、直接ご指示をいただいたほうがよいと考えたからです。
しかし、F本部長の部門は、社内の大黒柱の事業部でもあり、緊急を要するということでとにかくお話を一度聞いてみようということになったのです。
F本部長とお話をして分かったのは、F本部長が一流の営業マンの実績があり、人を巻きこむということには、大変自信を持っているということでした。そこで、部門会議にオンラインで音声のみで参加させていただきました。
部門会議を聴いたことで、F本部長に関する改善点がすぐに明らかになりましたので、社長とF本部長と振り返りをしました。そして、F本部長のコンサルティングを行うことになったのです。
先ほどもお伝えしたように、F本部長は自分の営業力には、圧倒的な自信を持っていました。過去の自分のやり方だけに固執することなく、様々な新しい手法も勉強されていました。
部下の扱いについても、自分が課長で16名の部門を率いた時に、2年連続で社長賞を勝ち取る実績を残したこともあり、これにもまた相当な自信を持たれていたのです。
この会社の執行役4名の内、3名の方は、すでにコンサルティングを1年以上前に受けていたのですが、F本部長のみが固持されていたのです。部門の業績が振るわないことで、F本部長は、社長からの指示を跳ね返すことができなかったというわけです。
社長の前では、そこまであからさまではなかったのですが、コンサルティング初日のF本部長の態度は、はっきりとしたものでした。
「木村さん、社長に伝えていただいても良いので、はっきり申しあげます。私は、なぜ受講する必要があるのか、正直納得していません。」
なかなか、ここまではっきりと口にする人はいませんが、こうしたことは驚くに値しません。ほぼ、いつもこのような形からのスタートです。コンサルティングを希望する方は、社長しかいない。それ以外の方にしてみれば、自分から選んだものではないので、「迷惑なこと」から始まるのです。
もちろん、F本部長の抵抗姿勢が続けば、何一つ変わることはありません。よく言われる話しですが、F本部長に、新しい知識や技術を受け取る気がなければ、何も改善は進まないのです。ただ、私にとっては、この態度から始まる場合は、好都合です。なぜなら、アドバイスの技術を私が実践することができるし、F本部長が、このアドバイスの技術の効果をアドバイスを受け取る側として、実感できるからです。
最初のF部長との面談は、1時間でした。目的は、F本部長の状況を共有すること、そして、今後の流れの説明です。面談が終了間際、私はF本部長に尋ねました。「先ほど、○○のお話をしました。あれは、私がアドバイスの技術を使ったのです。素直に受け取れることがあったと思いましたが、如何でしたか?」
F本部長の顔が変わりました。
あれほど自信満々で、学ぶことなど何もないと豪語していたF本部長は、狙い通り受け取る姿勢になったのです。
F本部長は、私との対話を振り返っている様子でしたが、ふと顔を上げて言いました。
「木村先生、私は、なぜ私の部門がうまくいっていないのか、私のやり方に原因があるのだなということが分かりました。これからがとても楽しみです。」
それからF本部長の快進撃が始まります。もともとのビジネススキルはめっぽう高い。ただ、使っていた道具がポンコツで、やり方がまずかっただけなのです。
F本部長は部下達に、社長から指導されていた方法(弊社が社長に提供した手法)とは違うやり方をしていました。
F本部長には、弊社の推奨している4ステップ対話法を基軸に据えて、、マネジメントする方向に変えたのです。そして、F本部長の部下の3人の担当部長にも、この4ステップ対話法を部下の課長へ実践してもらうことにしました。
すると、3名の担当部長のパフォーマンスは、開始から4ヶ月でミルミル変わっていきました。担当部長から、丸投げの質問は皆無となり、解決策とその進捗状況が語られるようになっていったのです。
何を変えたのかというと、F本部長とその部下の担当部長、更にその下の課長の行動を変えたのです。わずか半年間で、担当部長、その下の課長の方々の能力はそんなにかわりません。しかし、思考と行動を変えることで、生産性が飛躍していったのです。
「こんなことが短時間にそんな変化が起こるわけがない」とこのやり方を知らない人達は、必ず言います。もともと、こちらの社長もそのように言っていました。それもそのはずです。この手法は、世の中には、知られていないからです。
一方で、このやり方が、これほどまでに、行動を変えることが、事実でないとしたならば、どうして、この手法を導入した企業は、過去最高実績を叩き出すのか説明がつかないのです。
商品も同じ、サービスも同じ、売る人も同じ、組織の上層部も同じ。でも売上げが上がり始めるのです。この変化が起こりえるとしたら、思考と行動が変わる以外に、あり得ないのではないか。そう考えるのが論理的にも正しいとしかいいようがないのです。
F本部長がやったことを一言でいうと、次のことです。
社員の仕事の時間を活かした
「時間は有限」です。それは、誰にとっても同じことです。会社で働いている時間もまた有限です。社員が会社に集い、仕事をする時、社員の時間の使い方には、リーダーは強い影響力を持っています。
成果がいまひとつのリーダーと、成果を出し続けているリーダーを比較すると、そのリーダーの部下である社員の時間の使い方には明確な違いがあります。
成果がいまひとつのリーダーは、部下である社員達の時間をも奪っているのです。
成果がでないリーダーは、部下である社員の有限な時間を最大限に活用せずに、無駄な時間を放置しているのです。結果的に生産性が上がらない。
一方、成果を出し続けるリーダーは、部下の時間も活かしきっているのです。まさに、生産性が大幅に上昇するための必須条件とも言えます。
人不足時代の今、良い社員を取りたくてもなかなか採用できません。その努力は継続することはもちろんですが、それがなければ、前にすすまない状態では、消耗戦となります。
今こそ、社員の生産性を継続的に引き上げる機能を社内に取り入れる時です。