コラム「組織の成長加速法」-第66回 商品を磨いて○○を拡大する
「ころころ変えるものじゃないと思うのですけど、少し絞り込んだのですよ」と照れ笑いしながら話されるY社長。
2年前に10年以上使い続けた企業理念を見直して、更に尖った表現が盛り込まれていました。理念の見直しと同時に、商品の見直し、パッケージ、マーケティングメッセージの組み替え、作り替えと全部見直したとのこと。
顧客対象を絞り込むというのは、恐いことです。ただ、その方が上手くのです。この会社は、その後、2年連続過去最高益。
領域を狭めてやると、見えてくるパターンがあります。。そのパターンを見極めて、横展開する。Y社長のお得意の展開の仕方です。来年は、別の領域でこのパターンを展開予定。このように、商品を研いで研いで研ぎ澄ませて、尖らせる。これが商品の磨き込みです。
大企業とは資本力で見劣りのするベンチャー、規模の小さな企業の場合、この磨き込みがないと勝率が下がります。ところが、一端絞り込んでみるものの、その領域でなかなか成果が出ないと、ついつい「隣の芝生は青く見える」錯覚に陥ります。そして周辺に手を広げてしまうという事例が後を絶ちません。
このように、怖さに負けてなんとなく領域を次々に変えると、資本と時間を浪費してしまうのです。このやり方の結末は決まっています。身動きが取れなくなってしまいます。これは博打で、経営ではありません。
領域を変えることがダメなのではありません。領域は変えてもいいのです。でも、その前にやっておくことがあります。それは、撤退ラインの作成です。撤退ラインを明確にするとは、ある期間に投下する資本、期待される成果を線引きしておくことです。
当たり前のようで、撤退ラインが不明確なために、ダラダラと赤字が累積していくのです。財務的なインパクトは、撤退すれば解消できますが、一端組織が疲弊するとこれは尾を引きます。
無為無策の結末は、金属疲労のように組織が壊れることを良く覚えていてください。
成長企業の経営者は、この商品の、磨き込みが上手な方が多い。言い換えると、磨き込みが上手だから成長企業です。もちろん方程式がありません。磨き込めばいつも光り輝くとは限らない。だけど、磨かないと輝くことはない。
経営者が常に現場を周り、顧客から直接話を聞く。もしくは営業から良い情報だけではなく、失敗情報も手に入れる。磨き込みには、経営者の情報力が鍵となります。
まだ商品の磨き込みが必要なのに、経営者が現場を離れることがあります。途端に成長力が失墜してしまう企業の事例は事欠きません。商品の磨き込み、ビジネスモデルの作り込みは社長の仕事です。
時々、部下に任せておいて失敗を責め立てる経営者の方に遭遇します。社外からの情報、社内からの情報を一番もった人にしかできなのが商品の磨き込みとビジネスモデルの作り込みです。失敗前提で、部下の成長を意図して任せるならまだしも、自分の仕事を押しつけておいて失敗した部下を叱りつけるというのは、責任転嫁というものです。
関西基盤で展開するIT企業から相談を受けたことがあります。社内開発を得意としていたのですが、得意としていた業界が景気循環の波に遭遇しました。連動して大幅な赤字を経験した後、事業領域を広げることになりました。
景気変動の影響を回避しようとストックビジネスに目をつけました。それまでBtoCのビジネス経験がないにもかかわらず、夢のような事業計画を作り、銀行から資金を調達して事業をスタートしました。
リスクを軽減するために、商品開発ではなく、仕入れた商品を売ることになりました。始めて半年。仕入れ元から聞いていた話とは違い、顧客を獲得コストが、想定の5倍であることが分かりました。
その時点で、3年で黒字予定は絶望的だったのですが、新規の事業を担当した事業部長は、根拠もないのに、「もう少しの辛抱です!」を繰り返すばかり。撤退プランがなかったため、
それから更に1年ズルズルと事業を継続します。
赤字は膨らむ一方で、リーマンショック以降始めて全社赤字になります。さすがに社長がしびれを切らして、部門の大幅な縮小を決断すました。新規事業のために採用した人員は、他部門に振り分けますが、3ヶ月で全員退職。
このタイミングで支援をすることになったのですが、組織は不信感が渦巻き、退職届けをちらつかせる社員が次々と出てくる有様でした。社長と一緒に作った事業再生プラン。そのプランに沿って元々の強みである社内開発の生産性の改善に取り組みを開始しました。
事業の磨き込みに1年かけると、生産性が大幅に向上し、売上げ1.5倍拡大したものの、一人当たりの生産性の拡大で、入れ替わりがありましたが、社員総数は一定のままです。
既存事業の磨き込みが終わったので、親和性の高い領域を2つ選び横展開を開始しました。
1つの事業が想定外の伸びをみせ、その2年後には、利益が2.5倍となったのです。
さて、御社は如何でしょうか?
社長であるあなたは商品を磨きこんでいますか?
それても、不安に駆られて商品を増やしていますか?