コラム「組織の成長加速法」-第69回 動かない仕組みを放置するのは、悪である!
「社長、その考え方では、どの仕組みを導入したところで、まず上手くいきません。なぜなら、今の社長のスタンスが中途半端だからです。というのも、、、」個別でお話するのは初めてでしたが、K社長に正直に申し上げました。
K社長率いるある業界でNO1を目指す企業は、業績が急拡大し、それに併せて、組織も急拡大。若い社員が10名、20名単位で増える中、考えられないようなクレーム、社内不祥事が次から次へと出てきていました。
そうしたクレームが元で、古くからの顧客であり、最大の売上げ先であった上場会社を失いました。役員、古参の社員が動揺する中、それでも突き進むと決めたK社長。同時並行で様々な仕組みの導入を決断され、仕組みをもって課題に向き合おうとされたのです。
ところが、10ヶ月の導入期間を経て導入された動くはずの仕組みが動かない。仕組みによって、解決するはずの問題が頻発する事態に直面します。
業務に忙殺されそうになる役員を励まして仕組みの導入を支援してきた社長も、心底落胆したと後でお話されていました。
そのK社長がダメ元でと参加していただいた弊社セミナーでのご発言は、「仕組みを動かす仕掛けに興味を持った、一度話しを聞いてもらいたい」とのことでした。
セミナーが終了して2週間ほどたった頃、ホテルのラウンジでK社長とお会いしました。1時間ほどK社長のお話を聞いている中で、少々違和感を感じるようになりました。K社長は、自分自身のやり方には限界を感じているとおっしゃるのですが、本心ではないな、と私は感じたのです。
また、これまでに導入した様々な仕組みや制度を表向きはとても評価していると言うのですが、いくつかのものに対しては、お手並み拝見という姿勢がありありと出ていました。
表向きは社長は直接関わらず、役員をプロジェクトリーダーとして任命していました。ところが、自分は直接関わらないとはいうものの、担当役員を捕まえては自分の見解を強く主張するため、仕組みの導入の進捗が止まったり、調整に時間がかかったりしている状態でした。
この状況を聞いた時に、冒頭の言葉をK社長にお伝えしたというわけです。
コンサルティングをお引き受けする条件として、K社長自身が私のコンサルティングを受けて
いただくことを掲示しました。後からお伺いしたところでは、渋々飲んだ条件だったそうです。
K社長は、苦楽をともにしてきたとはいえど、創業以来一緒の役員にも、その下の部長達にも物足りなさを感じていました。
本人に直接は言わないのですが、「アイツのココが気に入らない」「コイツはこの辺りがまだまだだ」という思いが頭の中にひしめき合っていました。
社長の年齢を考えると、6-7年以内には交代をしないと、高齢の社長が在任していること自体が組織にとっての最大のリスクになることは目に見えていました。
となると、十分な時間が残っているわけではなく、早急に役員、幹部の能力、意識の引き上げが急務な状態だったのです。
半年間のコンサルティングが終了し、K社長と同時にコンサルティングを受けた次期社長候補のお一人とお話をしていましたら、ご自身が得た手応えを次のようにおしゃってくださいました。
「この技術がもっと若い時分に出会っていたら、こんなに苦労しなくてよかったですよ」と満面の笑みを浮かべられました。
この社長候補の方は、自身の部下と一緒に学んでいただき、実践していただきました。自分だけではなく、部下の部長二人が受け持つ組織の変化を目の当たりにして、この仕組みが本当に組織を動かすのだということ実感されたようでした。
K社長も同様で「仕組みを動かす仕掛け」の実践の過程で多くのことを発見したそうです。役員達との対話を進める中で、つきあいの長さからすれば、当然知ってるはずのことを知らなかったことに驚いたそうです。また、当然役員はこのように考えているだろう、このように感じているだろうと自分が信じて疑っていなかったことの多くは、勝手な自分の思い込みで、当人達は全く別の考えを持っていたことにも気がついたそうです。「もっと早く導入していたら、、、」途中の報告時にK社長の口から何度も出てきた言葉でした。
コンサルティングの進捗と同時に、先行して導入しながらも止まっていた仕組みも、動き始めました。
新規事業の拡大の鍵だった、新しい販売チャンネルを動かす仕組みは混乱状態が長く続いていました。赤字の額が積み重なっていましたが、好調な既存事業部の売上げに支えられて全社的にはまだ大きな問題になっていませんでした。社長直下のプロジェクトということもあり、他の役員でさえはあまり気にしていませんでした。
次の事業の柱を見据えていた社長にとって、この新しい販売チャンネルの取組はとても大きな意味を持っていました。これを「仕組みを動かす仕掛け」を使って新任の現場の部長が見事に組織をまとめ上げ、新しい販売チャネルでの売上げを急速に拡大させていました。
また新卒の入社と同時に、中途社員の入社も急増していました。既存社員の中には、自分よりも後から入社してきた中途入社組の給与が高いことに対して、わだかまりを感じていました。このわだかまりは、出店展開のスピードに大きな陰を落としていたのです。
エリアを統括する部長が中途入社社員と既存社員の軋轢の解消に時間を取られ、肝心要の展開スケジュールを守れなくなっていました。
このように組織を動かすリーダーが”部下を動かす技術”と”組織を動かす判断基準”を持ち合わせていないと、目の前の火に目を奪われていきます。本質的な課題設定が出来ないのです。この部長が半年かけて「仕組みを動かす仕掛け」の実践ができるようになると、部長自ら本社に対して積極的な働きかけをするようになりました。その結果、導入当初から1年間塩漬けになっていた評価システムも動き始めたのです。
仕事に対する姿勢を変えることは、けっして簡単なことではありません。しかし「仕組みを動かす仕掛け」を使うことで着実に社員の行動と成果を改善させることができます。
これは、現場のリーダーにはもちろん必須ですし、現場のリーダーを動かす経営幹部にも必須の仕掛けです。
既存事業の販売戦略であれ、新規事業のビジネスモデルであれ、それを実践するのは人です。精緻な業務マニュアルや、手順書が揃っていても、それを使う人のもやはり人です。
仕組み自体の精度、具体性をどこまで追求しても、それだけでは組織は動かないのです。故に成果は上がりません。
・仕組みを揃えても変わらない
・仕組みを導入したのに組織が動かない
・やり方を変えたはずなのに成果が変わらない
・マニュアルを作ったのに誰も読まない
・最初は良かったが途中から滞っている
もし新しい仕組みを導入したのに何も変化がないとしたら、それはその仕組みが持つ構造的な問題にどっぷりハマってしまった状態です。
ならば、「仕組みを動かす仕掛け」を手にしてください。「仕組みを動かす仕掛け」とは、組織内にある、あらゆる仕組みを動かす潤滑油です。「仕組みを動かす仕掛け」で御社の懸案を解消してください。