コラム「組織の成長加速法」-第108回 なぜ58才の頑固支店長がわずか数ヶ月で激変したのか?
九州地方で、16店舗を展開する企業のS支店長とお会いしたのは、2年前のことです。最初にお会いした時、自分は人の好き嫌いが激しいから、すべて数字によって管理することをモットーにしている、とおしゃったのです。
自分のことを客観視することができる、素晴らしいリーダーなんだなぁ、そう思ったことを覚えています。
社内からも、ご意見番として一目置かれている存在でもありました。どんな企業にも生き字引的な役割をしている人がいます。企業歴が長い人がそうなるケース、Sさんのように、業界歴が長い人もそうです。
若い支店長や、係長には、事細かなアドバイスを惜しまない。その圧倒的な知識量にそいうした知見に接した人達の中には、S支店長に心酔する人もいました。
こういう人が社内にいるって幸せなことですね。。。。となれば美談で終わるのですが、少々残念な点がありました。
それは、Sさんの支店の成績は全支店中、いつも下から数えたほうが早い。下位常連でした。Sさんの言う話、経験談は、どれも感服するような話が多かったので私も当初は不思議でなりませんでした。
役員の方からいろいろ聞き取りをしても、今ひとつ私の中で様々な情報の整合がとれません。役員間でも、評価が分かれる人だったのです。
2回目、3回目と面談するうち、あることに気がつきました。一言で言うなら「頑固もの」でした。
それもなかなかお目にかかれないような頑固者でした。なにせ解釈が独特なのです。話をしていて、論点がズレていくことが度々ありました。彼の独特の強烈な世界観が様々な不思議な解釈を生み出していました。
こういう人とは、距離をある程度保っていないと、飲み込まれてしまいます。面談を繰り返していく内に、なぜ多くの強烈なS 信者がいる理由もわかりました。Sさんの話は、全て断定、断定、断定の連続。少々でもぐらつくところがある人は圧倒されてしまうのです。
自信に満ちあふれた言動は、S支店長の独特な世界観に裏打ちされていました。揺るぎない世界観は、周囲の出来事に対する独特な解釈を創り出していました。
その結果、いつのまにか、事実よりも解釈が優先されていました。言うことは正論、しかし、成果が出ない原因は、ここにあったのです。
本人は悪気なく、解釈を変えていくため、なかなか問題のとっかかりが掴めず手こずったのを覚えています。
そこで、徹底的に文字化することを約束してもらいました。これによって解釈の違いで、次第に問題、課題が他のものに転化することを防ぐことに成功しました。
そしてもう一つは、対話の形を変えることでした。部下と面談をしていても、5%はS支店長が話していたのです。最初に面談している部下がベテラン社員でしたので、どんな時も、50%以上は相手に話させることを約束してもらいました。
対話の形というのは、習慣の産物ですから、頭でわかってもすぐに変えるものではありません。Sさんも苦しみましたが50%ルールは死守してもらいました。
このたった2つの事でしたが、効果は驚くべきものでした。長年鳴かず飛ばずといわれていたベテラン2人でしたが、全支店の成績優秀者ランキングに2人ともランクインしてしまったのです。
この結果をみて、S支店長自身、何か思うことがあったようで、支店全員の社員に対して、ベテラン2人に対してうまくいったことを横展開初めました。すると、これまたびっくりなことに面談を初めて5ヶ月目には、支店の成績が激変したのです。
長年下位常連だった支店の成績が一気に全社トップに躍り出ました。しかもそれは、単月だけのことではなかったのです。、以後8ヶ月連続トップになったのです。
S支店長は自らの世界観を捨て去ることはしませんでしたが、マネジメントのやり方は変えました。
あるとき、S支店長が「定年までの2年間は、自分の社会人人生の集大成の時期。この時期に、自分の後進を育成したい」と言っていたので、そのためには、考え方を変えるのか、やり方を変えるか、結論を出して欲しいと迫ったのです。
自分と部下の成長のために、「自分のやり方を捨て去る」ということを見事にやり遂げた結果、まるでオセロゲーム終盤の大逆転のようなことが起こったのです。
私自身、あれだけ短期間に成果が変わるとは予想していませんでした。
これまで出会った経営幹部の方々の中に、誰1人として、部下を苦しめてやろうという人には出会ったことはありません。寧ろその逆で、なんとか部下に成長してもらって、組織の成果を拡大したいと思っている方々ばかりです。
ところが、実際は、どいういうわけか、部下が成長するどころか、時間の経過と共に、思わしくない方向に進んでいってしまうことがあるのです。
共通しているのは、「『どいういうわけでそうなっているのか』を理解していない」ことです。原因不明の病は、治療することはできません。できることは、対処療法で、根本治癒は
できません。
だから、いつまでも、根本解決につながることはなく、目の前の問題に、その場その場で思いつく対処をするわけです。
話をS支店長に話を戻します。先日、S支店長からハガキを頂戴したのです。一行だけ書いてありました。「今期も予算達成しました!」と一行です。
S支店長の社会人総決算はうまく帳尻が合いそうな気配です。「木村さん、俺もう、夢を見てるようですよ」最後の面談の時、S支店長が言ったあの言葉、ハガキを読みながら耳によみがえってきました。
さて、御社の支店長、経営幹部の方々は、部下の成長のために、「自分のやり方」から脱皮することに成功しているでしょうか?それとも、「自分のやり方」にこだわり退化しているでしょうか?
また、もし、後者だとしたら、部下を巻き込みます。それを防ぐための有効な対策は打てているでしょうか?