コラム「組織の成長加速法」-第139回 「社長、私には無理です。どうか降格とさせてください。」自他共にマネジメント失格者だった彼が2ヶ月で変わった理由。
ある地域で一昨年、100億円を見事に達成された企業があります。店舗数を増やすこともなく毎年、6-7億円増を継続的に積み上げた結果です。
業界全体としては、この10年縮小が続いている業界です。それでも成長し続けたわけは、社員の生産性が高くなったことです。だからといってブラック企業でもありません。時短と生産性の向上を同時にやってのけたのです。
その会社のM社長とお会いしたのは、5年前のことです。M社長は市場規模が縮小する状態で、同業他社のノウハウよりも、他業界の成功事例を参考にするべきだという持論の持ち主です。
様々な業界の成功事例を社内に導入されて、地域では注目される経営者のお一人でした。そのM社長が弊社にご相談した時は、成長率の低迷が2年続いた時のことでした。
「いろいろ試して、少しずつ改善はしているのですが、今のままでは100億円が見えんのです。」と。詳しく聞いていけば、契約率は業界平均を全体でも20-30%上回っていました。
一方で、成果がでる社員と成果が出ない社員の二極化が進み、その差が徐々に広がり、成果がでる社員と出ない社員の固定化を大変危惧されていたのです。
第1期のメンバーは、社内でもトップクラスのメンバーが集まりました。ほっといても成果が出るメンバーです。支店の売上げはもちろんあがりました。支店長が与しやすい部下のみならず、どちらかという性格的に苦手な部下、自分より社歴の長い部下、年上の部下等の成果を短期的に上げることができたからです。
M社長も、この結果に満足しながらも、想定内という様子でした。M社長が「(この成果には)驚きました!」というのが、第2期のメンバーです。
第2期メンバーは、スネに傷をもつメンバーが多く集まりました。どちらかというと、成果の出ないメンバーばかりです。昇格、降格を繰り返したメンバー、降格を何度か経験したメンバーです。
例えば、そのメンバ一人のKさん。Kさんが以前所属していた支店の支店長が昇格し、本社の新規事業担当部長になりました。そのため、支店長不在になったのです。消去法の結果、Kさんが支店長候補に。営業本部長から、促されるままなんとなく支店長になったものの、自分の顧客のフォローに手一杯のまま時間が過ぎていきました。部下のフォローまで手が回らなかったのです。
その結果、自分の目標も達成できず、支店全体の売上げも下がりました。入社して2年目、3年目の若い営業マン2人は、ある日突然、辞めてしまいました。
Kさんは、若い営業マンが辞めてしまったことは、自分の責任だと自分を責め続けました。Kさんの同僚の支店長や、副支店長は、Kさんに同情し、Kさんを励まし続けました。しかし、Kさんは社長に降格を直訴しました。「社長、私には無理です。どうか降格とさせてください。」
M社長は、Kさんにチャンスを上げたい気持ちもありつつも、大切な戦力である2人が辞めたこと、残っている社員の意欲も著しく低いことを鑑みて、Kさんを店長職から解き、別の店舗の営業リーダーとして異動させたのでした。
「Kは、後輩の面倒見がよかったので、支店長としても十分とやっていけると思っていたけれども、実際に支店長となると、自分の数字と管理業務に手一杯で部下指導ができなかった。支店長には向いていないのかも」とM社長は考えたようです。
ところが、このKさんのことは、M社長も気になっていました。もしチャンスがあれば、もう一度やらせたい。その気持ちはどこかにありました。そして、それがいよいよ実現することになったのです。
第2期のメンバーとして、Kさんを候補とした時、Kさんを副店長と昇格させ、の部下を2名持たせました。そして、部下2名の育成の合格ラインを明確にしました。
半年間で部下2名の営業マンが達成するべき、具体的な指標を明確にしたのです。アポ数、訪問数、提案件数、の指標を全て達成することを課したのです。
Kさんと面談した当初は大変な戸惑いようでした。後輩として、サポートするならまだしも、部下として、部下の成果にも責任があるといわれると、途端に自分には無理という言葉が蘇ってきたからです。
私がKさんと最初に面談をした時、Kさんが支店長になった時の内容を振り返りました。まさに、気合いと根性で取りかかり、自分が過去にやってきたことを拠り所にして、Kさんは、部下にアドバイスしていたそうです。
私達は、こうした理論の裏打ちのないやり方を我流と呼んでいます。我流に陥る人達には、悪気はありません。突き詰めると何の根拠もなく、ただ、やみくもに頑張っているのです。もしこれで結果がでたとしたら、まぐれ以外の何物でもありません。多くの場合は失敗に帰します。
当時の内容を振り返った後には、「なぜ、Kさんは部下に成果を出させることができなかった
か」その背景にある失敗に陥った構造を説明しました。そして、失敗を回避するための、部下に成果を出さるために必須のツールの使い方をお伝えしました。
2回目の面談では、そのツールを使ってどのように部下と面談をし、部下を着実に前に進める技術について伝えました。
Kさんから喜びのメールが届いたのは、それからわずか1ヶ月後の事です。メールにはこのように書かれていました。
「2人から、改善のための提案がでてきたことが何よりも嬉しいです。」その文面を読みながらKさんの得意げな顔を思い浮かべました。
自他共に認める、マネジメント失格者だったKさんが、わずか2ヶ月で部下から改善提案を引き出せたことに、一番喜んだのは、M社長でした。
その後もKさんの変化はめざましく、支店長、副支店長会議に出席するKさんの表情や発言に社長は驚いていました。
Kさんが、短期間に変化できたのは、Kさんが人知れずマネジメントの勉強をしてきたからではありません。Kさんの時間管理能力が、突然開花して、自分の時間と部下指導の時間配分が上手になったからでもありません。更に言えば、Kさんがまるで雷に打たれたように、ある時から別人のような特別な能力を身につけたわけでもありません。
Kさんが短期間で成果を出すことができたのは、実は特別なことでは全くありません。組織に属する人が着実に成果への一歩を踏み出すための考え方とその実践技術を手にすることで、Kさん以外の人達も成果を上げてきたやり方を、同じようにただ実践したことです。
「改善提案をしなさい!」「改善提案をして下さい!」「御願いだから改善提案をだしてよ!」多くのリーダーが部下に共通して要求することが「改善提案」です。Kさんも、これまで、ずっと同じことを繰り返し伝えてきたはずなのに、言われたことはやっても、改善提案がでてこなかった。
それが、わずか2ヶ月で、改善提案が部下2名から次々と出てくる状態に遭遇したKさん。最初は最初は半信半疑で、偶然だと思ったそうです。
しかし、たとえ半信半疑でも大丈夫なのです。なぜなら、これは信じることをベースにした、宗教ではありませんし、道徳でもない、それに、もちろん、気合いと根性でもない。
信じようと信じまいとできる。理論に裏打ちされた技術です。Kさんに足りなかったものは、マネジメントの資質ではなかったのです。ただ、正しいやり方を知らなかっただけなのです。
さて、あなたの会社の場合は如何でしょうか?
御社にも「マネジメントは向かない」と言われているベテラン社員はいますか?
果たしてその人は、正しいマネジメント技術のトレーニングを受けた上でのことでしょうか?
それとも、その人が「マネジメントに向かない」と言われる元になった残念な結果はその人がよかれと思ってやった、気合いと勘に基づいて生み出されたものではなかったでしょうか?
もし、後者だとして、今後も、気合いと勘に基づくマネジメントが継続することによって、生み出される損失は、どんなものがありますか?