コラム「組織の成長加速法」-第126回 部下の強みを活かしたい!と願いながら、部下を潰すリーダーが後を絶たないワケ
とある分野で同業他社のモデルになっている企業があります。そこの社員に聞いて見ると、ほとんどの社員が、一度ならず二度も三度も、複数の取引先から「良い会社に入りましたね。」って言われるのですよ。こんな会社ってそうそうあるもんじゃありません。
その会社で、次世代のリーダーが足りないので、今から育成したいというご依頼がありまして半年間担当しました。参加したリーダは全員女性でした。先日終了したのですが、感想をご紹介しましょう。
「相手に物事を深く考えさせ目標を達成させることが如何に成長につながるかを目の当たりにしました!」
「先回りをして教える、導くことは、彼らの成長や可能性を止めてしまっていたのだということに気がつきました。彼らの長所を最大限に理解し、自ら考えて行動してもあることこそ真の上司の姿だと思いました」
「現状に不満があるのは、気づいているが、「なんとなく」であり、あいまい。あの方法を使うことで、「どのくらい伸びしろがあるか?」を明確にできる。等々
これらは、座学の研修の後に生まれるようなコメントではありません。最初はマイナスからのスタートだった人達が、目の前の部下達の成長を意図して設計し、支援したからこそ生まれる言葉です。
このリーダー達の目は今、輝いていいます。なぜなら、彼女たちは、既にやり方が分かっているからです。これからも、このやり方を続けていけば、部下の成長を支援して、部下と共に、その成長を喜ぶことができるからです。
ただ、最初からそうではなかったのです。この9月から営業部のリーダーになるSさんの事例をお話しましょう。
Sさんは、営業としては、極端に押しが弱い。3年目くらいまでは、全く売れず、上司の誰もが、人一倍頑張り屋さんだけど、いつまで続けてくれるかなと心配するといった方でした。
しかし、その後、社長賞の最終候補の常連になっています。誰よりもお客様に寄り添うので、紹介が紹介を呼ぶという他の人が真似できない好循環がうまれています。最強の営業スタイルを確立しているのがSさんです。
そんな彼女も、10年目となり、後輩に指導する機会も増えてきました。プログラムを始めた当初に後輩指導に関して聞いたところでは、後輩指導の手応えはゼロとのことでした。実際に、プログラム期間中、新卒入社2年目の指導を担当していたのですが、まったく相手が動かない状態にSさんがあたふたする状態が続いていました。
マネジメント力の強化というのは、対話力を改善すれば良いわけでは全くありません。昨年、上司と部下の個別面談が大切だという本が大ブレークしましたが、導入した会社が上手くいったかというとそうでもありません。
リーダーの判断基準があやふやであれば、一貫性のもった答えが出せなくなります。言葉を換えていうなら、「行き当たりばったり」。その状況で対話の技術をいくら高めても、部下が成長を実感できるようにはならないのです。
Sさんは、語り口も穏やか、顧客い寄り添うように丁寧に部下に接するのですが、沢山の失敗経験を経たからこそ、後輩に嫌な思いをさせたくないと、一生懸命なのですが空回り。
確かに、Sさん自身は、自分の強みで勝負した結果、他の人は真似できない営業スタイルを確立しましたので、部下にも決まったやり方を押しつけたくないという気持ちが強くありました。
Sさん曰く、部下の強みを伸ばし、弱みをカバーとしたいと。この言葉は、てとても聞こえはいいのですが、実際のところ、部下の意見や希望に右往左往するばかり。部下の意見のまま、「じゃぁ、こうしよう」「じゃ、今度はこうしよう」と繰り返す内に、ぐるっと回って元に戻る。なんていう珍現象まで起こっていました。
まだ30mも走れない4歳児に、100m走り方を当てずっぽうで聞いても全く意味がないのと同じで基礎知識も、営業技術もない状態の人に、トップセールスになるための方法を聞いても意味がありません。
Sさんは勘違いしていたのですが、Sさんは、徹底的に基礎知識と基礎技術を叩き込まれた上で、自分の強みをいかしたのです。良かれと思ってやったとはいえ、見方を変えれば、Sさんのやったことは、優しさを装いながら、後輩に対して残酷なことをしていたのです。よくよく考えれば、どうやっても成果がでようのないことをやらせていたのですから。
この珍現象、Sさんに特別に起こったことではありません。組織で成果を上げられないリーダーは、経営幹部であっても、判断基準がないが故に「行き当たりばったり」になります。もちろん、当然成果はでません。
部下に成果を出さるためのリーダーが持つべき判断基準は、何万通りもありません。本当に数える程しかありません。しかし、それを知るか知らぬかで、文字通り雲泥の差です。
サラサラと見ていて気持ちよい雲の上にいるが如く、気持ちよく、リーダーも部下の成長を実感し、部下自身も成長を実感するという成長循環を実現するか、
ドシャブリの雨の中、粘土質の土の上を這いつくばって前進するが如く、惨めな状態で、
リーダーも、部下も、陰惨たるな気持ちで足を引きづって歩く悪循環に陥るのか、
判断基準を知るか知らぬかの差は大きい。
このようにいうと、判断基準は、大層なもののように感じるやもしれませんが、それは違います。そもそも難しければ、それは判断基準たり得ない。かけ算の九九の如く、単純で誰しもがすぐに分かるものです。だから誰もが習得できる「型」なのです。
この基準を教えることで、Sさんの言動はすぐに変化しました。(やはりシンプルですからすぐに適応できるわけですね。)すると、その後輩の女性の行動もほどなく変わりました。その後輩は、いわゆるできの悪い社員で、2年間一度も目標通りできなかったことがありました。
Sさんが働きかけを変えた翌週から連続して出来るようになります。そして、それ以後4ヶ月、継続しました。営業ですから、行動の量と質が変われば、成果ももちろん変わります。
当初はずーっと下を向いて、小さなうなずきを繰り返すだけだった2年目の後輩も、初めて4ヶ月には、面談中に笑顔がでるようになりました。
それだけではありません。Sさんが問いかけずとも、自ら目標に向けての改善策を話すようになりました。そして、「ここが今ひとつうまく進まないのですが、Sさんは、どうやって乗り越えたのですか?」といった心憎い質問まで飛び出すまでになったのです。
まさに、問題解決能力が、僅か半年間で身につき始めた、状態です。2年間ダメ社員だった彼女がこうまで変わったことに、Sさんも驚いていました。
さて、御社では如何でしょうか?
この半年で人が成長しないことの影響の大きさに思いをはせたことはありますか?想像するのは容易ではありませんね。では、こうしてください。
過去5年を振り返って、そのトップレベルの人がいますね。その人は、どれかで利益貢献していますか?
その人が後1人、2人いたとします。利益にどれだけの違いをもたらしていいますか?そして、それが5年間でどれだけの利益になりますか?
御社で失ってきたものがわかりますか?手をうたなければ、その損失はまさに雪だるま式です。また、その結果が、成長率の違いになって現れます。
御社の中長期の目標達成のために、本気で取り組むことはもうおわかりです。なのに、あとどのくらい、見て見ぬふりを続けますか?そして、その結果、どれくらいの機会損失をもたらす事になりますか?