コラム「組織の成長加速法」-第102回 〇〇があって大成功する役員、大失敗する役員 その違いはカラクリは?
面談時に、成果を継続させる組織の条件について図解で説明した折、、T取締役は、目をしばたかせながら、「本当にそうですね」といって一生懸命メモを取られました。
この数年売上の伸びが停滞していることを懸念されてY社長が弊社にご相談に見えたのは、
3年前のこと。このところ、Y社長が繰り返しおっしゃるのが、「もっと早く導入するのでした」ということ。1期目の常務、専務の仕事にかける姿勢が変わったことで、組織に大きな変化が出てきているのを肌身で感じたからのようです。
常務、専務も50代後半のため、1年は見てくださいね。という言葉をよそに、せっかちなY社長は半年プログラムを選択されました。この時のことは、Y社長が申し訳なさそう話してくださったのは、T取締役を含む4名の方々の第2期コンサルティングが始まって2か月ほどした頃でした。
「いやぁ、正直を言いますと、半分あきらめながらでした。いや、半分は期待していたんですよ。もちろん。でも、木村先生が最初に、1年見てくださいっておしゃいましたけど、1年まって、変わらないってのは、ちょっと我慢できないなと思って。。。先生のアドバイスは、ちょっと無視というか、聞かないことにして、半年にしてもらったんですよ。」
「常務も専務もお年の割にっていうと、失礼ですけど、素直な方々でしたから、半年間でも
成果を上がって、私もほっとしました。」と私。
「いやぁ、木村先生、今に思えば、3年前にやっておくのだったって、そればかり反省ですよ。まず、自分でやってみようだなんて、あれがいけなかった。まぁ、それは言っても仕方がないので、、、Tは相当頑固ものですが、もし本人その気なら、もっと任せたいこともあるので、一つ宜しくお願いします。」
といって、あっけらかん。いつものY社長スマイルで、報告書を閉じると。今度はY社長が資料をとりだしました。Y社長が今取り組もうとしている新規事業の進め方に関する相談に話題は移っていきました。
T取締役は、常務とともに、その地域ではちょっとした有名人。顔が広く、面倒見がいいことで、多くの顧客企業の経営者からも絶大な信頼を寄せられています。常務が新しいチャネル開拓のため、全国の販売店の統括部門の担当になってからは、T取締役に法人営業部門を統括するようになりました。
常務は天才肌の営業マンで、カリスマ性もあります。T取締役は努力型。常務と二人三脚で、この10年間の全社の売上を牽引してきました。T取締役は、常務の教えを受け継ぎながら、組織的な営業スタイルを確立することに見事に成功しました。
ところが、この数年、法人営業部門の売り上げが伸び悩むことで、全社の売上の伸びにつながってるのでした。
これも最近になってY社長が白状してくれたことでしたが、「本当は、法人部門の立て直しを
一番最初にやりたかった」そうです。ところが、”万一コンサルティングが失敗して、法人部門の業績がさらに下降するようなことがあれば、大変なことになる”という心配から、まず、専務と常務ともう一人の取締役の部門の改善度合いをみて、本丸に手をつけようと考えたというのです。
そして、その時、Y社長が声を落としていったことがあります。それは、T取締役に最初に話をもっていったら「私は自分のやり方でやりたい」といって、最初のメンバーから外れたといういきさつでした。
こういう方も珍しいことではないので、驚くようなことではありませんでした。誤解を恐れずにいうなら、よくあるケースです。また、私にとっては、成功パターンの一つでもあります。
成果をそこそこ上げた実績がある方は、成果のでる仕事の仕方は身に着けているからです。コンサルティングによって、判断基準の更新をすることで、大きく成果を上げる方が多いです。
とは言え、相手は頑固な状態ではじまります。そのため、変化が現れるまでに時間がかかります。T取締役の場合もそうでした。営業が身についていいるので、あからさまな態度はとりませんでした。その代わり、明確に距離を置きながら話をされていました。
「私は自分のやり方でやりたい」という言葉に象徴されるように自分のやり方にとても自信を持っている場合は、人からとやかく言われたくないわけですから。これが自信の罠です。
どんな組織にも共通することがあります。
持続的に成果が上がり続けているということは、組織の内外に起こる環境変化に対応できているということを意味します。一方、今回のT取締役の法人部門のように、成果に陰りが出てきているという場合は、何か環境変化に適応できてない証拠です。
数字は冷徹に現実を投影しているのです。結果的に、T取締役自身が知らず知らず自ら殻に閉じこもった状態にありました。常務に認められたい気持ちがいまだに強く、一番の相談相手であった常務にも相談できず、紋々と苦しんでいたのです。
それまでうまくいっていたことが、どうも同じような成果につながらない。このことに焦りを覚えたT取締役は、これまで以上に組織の引き締めることに力を入れるようになりました。
T取締役自身の焦りは、結果的に、部下に対して高圧的な態度を取るという形になったのです。焦れば焦るほど、部下を動かすために。叱責、叱責、そしてまた叱責となっていたのでした。
状況をよく呑み込めない中堅社員が数名立て続けに辞めると、その穴を埋めるために組織に対する負荷が一気に高まりました。T取締役を慕う2名の課長もT取締役に理解を示しつつも、対応に苦慮していました。
もっと行動量を増やさなければならない状況にありながらも、T取締役が、叱責すればするほど、組織全体がどす黒いべっとり油がついたように動きにくくなっているような状態になっていたのです。
後に、T取締役は、自らが「どうでもいいこと(T取締役の言葉)に固執していた」と反省に弁を述べていましたが、「自分自身では気づくことができなかった」そうです。
私との面談で、ステップを踏みながら、常務からアドバイスをもらうことになりました。常務からのアドバイスがきっかけとなり、”自分自身の焦りを手放して、売り上げではなく部下を見ることに注力した(T取締役談)”ことが変化のきっかけになりました。
そこからは、プラスのドミノ倒しです。判断に迷いがあり、なかなか動けてなかった2人の課長に変化が見られました。部門全体のプロセスの進捗率が急速に改善していきました。進捗率20-30%であったことが、ある月から軒並み80-90%に改善するという劇的な変化がおこったのです。
「問題を抱えた同じ思考レベルのままで、その問題を解決することはできない」という有名な言葉がありますが、組織が問題を抱える時は、いつも解決の糸口になる考え方です。
今回のT取締役のように、「自ら自分のやり方に自信を持つ」ことは本来はとてもよいことなのですが、気を付けていないと、自信の罠にはまり、やり方が固定してしまいます。
言われてみれば、当たり前のことなのですが、なかなか自ら気づくのが難しいことの一つでもあります。たとえ、今回の内容を読んで、「そうだ、そうだ」となっても、いざ自分が当事者になると視点が固定し、客観的に物事が見えなくなります。
とはいえ、「難しいよね」といって放置すると、T取締役のようなことは誰にでも起こりうることです。
何もしなければ、リーダーが柔軟性は時とともに失われていきます。それが組織に与える影響は、思いのほか大きい。そしてこれは放置すれば、他の問題同様に、悪化の一途を辿るのです。
自らの強みを活かして、さらに成果を積み上げる際に必要なことは、自信の罠に陥ることなく、確認を怠らないことです。実際に、成果を継続する人は、自らのやり方のバージョンアップを怠りません。
T取締役にも、具体的な方法をお示しして、ステップを追いながら、実行してもらいました。その結果、自信は再形成され成果につながりました。
わずか、数か月の間の変化に必要なものは、能力ではなく、能力を生かすための、リーダーとしての判断基準の更新です。
さて、御社の場合はどうでしょうか?
部下をもつリーダー自身は、自らバージョンアップするための方法を実行しているでしょうか?それとも、リーダーが自信の罠に陥って、リーダー自身が組織の成長阻害の一要因になっているでしょうか?