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代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第100回 狙い通り組織で成果を出す方法とは?

「木村先生、あの彼が、毎回提案をもってきてくれるんですよ」と、G部長が報告してくれた時、「え?」って私は声を上げました。「あの彼が?」そいう思ったからです。

技術畑ながら、数字へのこだわりがとても強く、部長になってから4年間。四半期毎の予算達成をし続けているのは、社内でG部長ただ1人。そんな実行力の塊のようなG部長でしたが、ちょっと控えめな方なんです。俗に、リーダーのタイプとして、赤い炎のリーダーと、青い炎のリーダーといった分け方があります。G部長は、後者の青い炎です。

そんなG部長には、ひとつ秘密がありました。G部長の周りは誰1人それを察知する人はいないのですが、直属の上司の常務だけは知っている秘密です。G部長は、人とのコミュニケーションが大の苦手でした。部長職になってからは、別人になるべく、相当の努力の末、周りからは、いつも親身に相談に乗ってくれと、とても頼りになる親分として、尊敬を集めていました。

実際に若いエンジニアの中には、G部長のようになりたいという人も沢山いると常務から伺いました。


向上心旺盛のG部長は、役員を目指していました。G部長を応援している常務は、更に上を目指すなら、部下を巻き込む力の強化が必須であると、何度もアドバイスをしたそうです。ところが、なかなかこの点の改善がすすまず、4年が過ぎていました。

当初は、常務の後釜としては、G部長というのが既定路線のように言われていたのですが、若手の課長の中には、部下使いがとても上手なものも出てきて、混戦模様となりつつあったのです。

そんな折、G部長にコンサルティングをする機会を得ました。今のG部長からは想像が難しいのですが、最初の課題は、部下に対する仕事の委譲を行うことでした。この問題は、多くのリーダーが抱える問題のひとつです。G部長にとってもこれは大きな問題として長い期間残ったままでした。

本人曰く「任せても、すぐに自分で手を出してしまう」とのことでした。「自分自身の手で成果を出すことに喜びを感じる」こんなことも言っていたのです


そこで、一計を案じました。G部長には、このままの状態がもし1年続くとしたら、G部長が望んでいる将来を自ら壊しかねないことを理解してもらいました。目の前の喜びと将来の得たい自分の天秤です。もちろん、G部長は、将来を選択しその獲得に向かって努力することを誓ってくれました。

次のステップは、実際に部下に仕事を任せ、部下にやり切らせること。2人の部下へ期限付きで、仕事を任せる。G部長にはこの成功体験が必要でした。

部下との面談に立ち会わせもらってわかったことは、異動した先の支店で、将来の右腕、左腕と紹介された2人とG部長の信頼関係はほとんど破綻状態であることでした。ちょっと困ってしまったのです。なぜなら、通常信頼の快復には時間がかかるからです。

通常は半年間かかるものを半分以下の期間で行わなければ、常務の期待に応えるどころか、
9期連続の予算達成にも黄色信号がともる状況だったのです。部下の前では、決して弱音をはくことのないG部長でしたが、弱気発言がぼろぼろ口から溢れでました。

「私はリーダーにはむいて無いかもしれない」

この言葉を聞いた時、私は、G部長に言いました。「本当にそう思うなら、辞めた方がいいですよ。部下が気の毒です。」と。G部長がうなだれたのは言うまでもありません。しかしこれを境に、G部長の躍進が始まりました。


G部長は2人の部下との面談の機会をそれぞれ週1回20分ずつとることにしました。これを実践を初めて2ヶ月間は何もおこりませんでした。G部長の葛藤の2か月でした。最初の変化は3ヶ月目に起ました。そして、翌月にも変化が続いたのです。

G部長の部門で始まった新しいプロジェクトを成功させるためには、G部長の率いる技術部門と、営業部門との連携が不可欠でした。ところが、この連携はなかなか進まなかったのです。3か月目になって一人が積極的に動くようになりました。最初の2か月は、渋々営業部門の会議に参加して、情報共有をし、会議の最後に、依頼内容を読み上げることをしていました。ところが誰一人動いてくれなかったのです。G部長と改善案を考えることを繰り返すうちに、自ら工夫して、一人一人の営業に合わせて、自ら工夫を凝らすようになっていきました。


これも多くの企業で起こることです。内弁慶のように、自分の部門では伸び伸びと仕事をする人が、他部門との関わりが出た途端、塩をかけたナメクジのように動かなくなってしまうのです。このよくある問題を、G部長は見事に部下の1人に克服させることに3ヶ月目で成功しました。

またもう1人については、G部長だけがやっていた、部門スタッフのスケジュール管理をやってもらいました。これは4か月後に変化がありました。どちらかというと2人目のほうが難易度が高い内容でした。30代の本人にしてみれば、自分より年配の40代、50代の技術者、年次が上の先輩にも声をかけ、時には号令をかけなければいけない。そんな役割に臆して、G部長との面談では、いつもただ貝のように黙りこくる30代社員でした。この間の状況をつぶさに見ていた私は、この30代社員には向いてないのではないか、と思ったほどでした。

が、G部長はあきらめずに、私のほうで伝えたやり方を守って根気よく面談を続けてくれました。すると、見事に4ヶ月後に変化は訪れたのです。「G部長、次はこんな風にしてみたいんですけど、やってみてもいいですか?」これを聞いたG部長が私に報告してくれた時のうれしそうな顔は今でも覚えています。小躍りとはうまくいったもので、太めのG部長の体が、少し浮いている感じに思えたほどでした。


冒頭にお話ししたように、G部長は人とのコミュニーケーションには苦手意識を持っていました。そして、その苦手意識は改善することなく、本人はずっと持ちづづけたままでした。そこで、「苦手意識は改善しなくていいです。」と、途中からそういうことにしたのです。そうすると、G部長の肩の力が抜けました。

私は言いました。「人を巻き込むのは技術です。人とコミュニケ-ションが苦手であっても、これは技術ですから、練習すればそこそこうまくいくはずです。実験してみましょう。うまくいかなかったら別の方法を考えましょう。」

G部長の周りの人は、いまだに気が付かないかもしれませんが、G部長に聞けば、今でも人とのコミュニケーションは苦手だというでしょう。それでも、部下に成果を出すことができる。まさに、「マネジメントは技術であって、素質ではない。」という私の持論を裏付けることに結果となりました。


G部長のような変化は、コンサルティング時に、ステップを踏んで進めると、誰にでも訪れます。しかし、いまこうして読んでらっしゃるあなた自身がそうであるように、コンサルティングを始める時点では、受ける皆さんはほぼ全員が疑心暗鬼です。

いちいち反論がでます。「え?今まで言ってきてますよ。散々。でも、ちっとも変わらなかった。」というわけです。

半年、いや、1年、2年、長いもので3年5年変わらずにあり続けた組織の課題。そんなに簡単に解決するわけがないだろうというのです。まぁ、無理もありませんね。皆さん口を揃えたようにおっしゃいます。

ところが、ここで、ほんの小さな処方をします。すると、数か月もすると、「あら不思議」という変化を体感するのです。なぜ、こんなことが起こりえるのか?なかなか一言で説明するのは難しいのですが、処方という言葉を使えば、「間違った処方をしてきたから、その症状は改善しなかった。」というのが私の診たてです。

更に例えて言うなら、頭痛するからと、鎮痛薬を処方しても、改善する気配がない。なぜなら、便秘が原因で頭痛が起こっていたから、便秘を直さないとダメですよ。といった具合です。

ちょっと想像してみてください。狙った通り、部下を成長させることができたら、御社の状況はどのように変わるでしょうか?部下の1人を狙い通り成長させ、契約まで一人でできるように、従来の半分の期間でできるようにする。その1人を2人に。2人をを3人に。3人を4人と進めることができたら、ベテラン一人に頼らない、組織で成果を作ることができるようになります。

でも、間違えないでください。最初の一歩で大切なことは、一気に組織全体を動かすことではありません。「まず目の前の一人を変革する技術を身に着けること」です。