コラム「組織の成長加速法」-第72回 マネジメント軽視の恐ろしい結末とは?
東北のある分野でNO1を目指している営業会社。実は50年以上続く老舗企業です。2代目で大きく飛躍。一気にNO1の座を射止め、圧倒的な地位を築こうと着々と準備が進んでいます。
3年前から、3代目への事業の承継を見据えた、将来の組織作りに取組はじめたH社長。外部の知見も活用したいということでお声がけを頂きました。幹部には様々な研修も受けさせてきたものの、今ひとつ響いていないようだと。H社長は、眉をひそめます。
そして、H社長の手には、将来の幹部候補リスト。そのリストの中の社長が気になっている
数名の方々の相談を受けました。その中の1人に、Yさんがいました。
Yさんは、この2年間の思うように成果がでず、配置転換となっていました。社長からは、この1年が正念場で、もし今年も成果が出ないようであれば、彼は、一端候補からはずすつもりであるとのことでした。
そう言いながらも、「自分の悪いやり方を受け継いでしまったのがYだ」とのことで、Yさんのマネジメントスタイルをなんとか良い方向に導けないものだろうかと、気を揉んでいる様子でした。
そのY氏と話すと、確かに豪快なH社長に似た雰囲気です。YさんはH社長の直属の部下として20年以上一緒にやってきたそうで、言葉の言い回しも、H社長に似てました。
「何でも自分が口を挟まないと気が済まない」Yさん自身もそれが良くないことのようだ、、、と感じているものの、どのくらい、何を、どうやって変えればいいのか、わからないようでした。
最近のH社長はすっかり丸くなったと言われる一方で、Yさんは、H社長譲りの、筋金入りの厳しさを持ち、社内の多くがYさんのことを恐れていたのです。
H社長の眼光の鋭さを見れば、相当厳しい方と誰もが思うのでしょうが、部下に対して
怒鳴ることは、ここ数年ほとんどなくなったそうです。
H社長曰く、7-8年前まで「自分がルール」でそれ以上でも、それ以下でもない。そう思って会社をひっぱてきたそうです。
先代からバトンタッチを受けて、10年たった頃、人の入れ替わりが激しくなりました。先代の息の掛かった幹部達が抜けた後、組織のバランスが崩れたのです。売上げも頭打ちとなり、利益は急減。何かがおかしいと思いながらも、何をどう変えるべきか分からず。苦しい日々が続きました
H社長は、周りの先輩経営者に教えを乞い、自分がマネジメントというものを一切意識してこなかったことを大いに反省し、やり方を180度変ることになります。
H社長は、マネジメンを軽視したマネジメント不要論者だったと振り返ります。良い社員に報いるための仕組みは徹底して作りました。ところが人は慣れていきます。仕組みの効用が薄れていくのです。更に、先輩経営者から、信賞必罰にすべしとアドバイスをもらって、サボれない仕組みも作りました。ミスやクレームは確かに減りました。
でも、組織に活力が生まれない。逆に、活力が失われ、社員の目から光が消えていく。見かねて、H社長は、幹部を叱咤激励するも、組織の動きは、まるでブラックホールに吸い込まれるように緩慢になっていったのです。
H社長が怒鳴っても、自分で響き渡る自分の声がむなしく響いている感じがして、思わず、はっと我に返ることがあったと言います。
マネジメント不要論者だった頃、上司と部下の接点は、限定されていました。部下は、上司にくっついて訪問同行し、自分で自ら営業技術を盗みとるのが、最も効果性が高いと言ってはばからず、マネジメントといえば、OJTだけだったとのこと。
社内で打ち合わせの時間は、極力無くして、お客様のところをひたすら回ることを是としていたそうです。
ところが、新卒採用を初めてから、5-6年がたった頃、如何にOJTでは、技術の習得はできても、組織の力が発揮されないかを思い知ることになります。
先輩企業の中には、新卒2-3年目で、既に中核社員となり得ているのにも関わらず、いざ自分の会社に目を向けると、成果がでるどころか、半数以上が3年で退職するようになり、その状況に頭を抱えてしまったそうなのです。利益率がドンドン下がった頃と重なります。
このように、社長自らトップダウンで陣頭指揮を執り、組織内の規律も、社長が一手にその体現者であることは、多くの企業に見られることです。
最初は、社長自身に余裕が全くないため、部下とわざわざ、マネジメントのためのミーティングを取るなど考えられないと言います。しかし、新卒採用が始まったらマネジメントの優先順位を上げないと、昔のH社長のように、採用しても、人が抜け、また採用しても、人が抜け、と、人は残らず、徒労感だけが残る、になりかねない。
経営者の中には、それでも、マネジメントの優先順位を上げずに、組織崩壊への手立てを取れない企業も少なくないのです。
経営者なら、自分がマネジメントが好き嫌いに関係なく、組織の力を高めるための手段として、マネジメントの技術を経営者本人と経営幹部が身につけることを推し進めるべきです。
以前のH社長の会社のように、マネジメントは、OJTだけ。こういう会社、将来に向けてリスクを膨らませ続けていることをよくよく認識するべきです。
よしんば何かいい方法を仕入れて、入社3年で辞めなくなったとしましょう。しかし、OJTだけで教育した社員が30代後半にさしかかった頃、その人達は軒並み、組織に停滞をもたらす元凶となります。
社会人になってから、20年間の積み重ねたことを売り破るのは、簡単なことではないのです。
「マネジメントの余裕なんかあるものか」、「マネジメントなんて、日々やってることで、身構えるものでない」「マネジメントに時間をかけるなんて、、、」
こうした批判は、全くの的外れです。やったことのない人達にしてみれば、マネジメントは、ブラックボックスです。だから、食わず嫌いな人が多い。私自身そうでしたから、良く分かります。
マネジメントを軽んじて、そこに時間を投下しないとどうなるか?
その結末をみたことがありますか?
おそらく自分の会社、自分の部下を見ているだけでは、よくわからないのだと思います。私が多くの会社の幹部の方々、そしてその部下の方々の経過をみていると面白い発見がありました。
マネジメントがおまけ程度の扱いでも、マネジメントに時間と労力をかけていても、共通して起こる現象です。
それは、上司がやったことを部下がそのまた部下にやるという、まるで、親から子供へ遺伝するがごとくの組織内の遺伝現象です。
まさに、H社長から、Yさんに起こったことがそれなのです。H社長が就任後10年目前後に迎えた、組織のバランスの崩れは、まさに、ゆっくりと組織内遺伝現象が進行した結果の出来事だったのです。
良きも悪きも引き継がれていきます。
意図をもって社員の能力を引き上げる仕組みを持たなければ、悪気無く、組織の停滞をもたらす悪いクセが蔓延していきます。
地域でNO1、
エリアでNO1、
都道府県でNO1、
業界でNO1、
を目指すなら、
経営における、マネジメントの優先順位を引き上げ、自ら考える社員を
意図をもってふやさなければ、NO1はもちろん、組織の存続さえ危うくなります。
さて、御社では如何でしょうか?
その方針はきまったとして、具体的な取組を開始できてますでしょうか?
とれとも、方針は決まったけど、どうやっていいかわからないままでしょうか?