コラム「組織の成長加速法」-第48話 衰退リーダーは組織行動量の不足を招き衰退する 成長リーダーは組織行動量を生む仕組みで成長する
「私が目標を低く設定しまった結果、彼らの伸びしろを、彼らの成長の機会を奪った気がします。と幹部候補の一人Fさん。4年ぶりの全社予算達成に社長を始め各部門のリーダーが笑顔でガッツポーズをする中、一人反省の弁。
話をお伺いすると、顧客獲得の打ち手は、どこの地域の支店も一緒とのこと。Fさん曰く、「成果の違いの原因は、やりきるか、やりきらないか、」とのことでした。空いた時間があればランニングをするというFさんは色黒で、精悍な顔なのですが、その時はどことなく疲れた様子でした。
Fさん自身が現場でバリバリやっていた時、アイディアマンというニックネーム通り、Fさんはそれまでの常識を打ち破る斬新的な手段を次々と開発し、7年連続予算達成したという伝説の人だったそうです。
ところが、リーダーになってからは、どうもチームの成績が振るいません。チームとしての成果は、中の上というところ。一昨年からはチームのメンバーの人数も減少傾向にあり、全体の足は引っ張らないが、期待されている爆発力がなかなか発揮されない。
社長も気にかけていましたし、Fさん本人もいつも自分自身のパフォーマンスに不満を抱えていました。もちろん、Fさん自身、手を拱いたわけではありません。次々と施策を打ち出しては、チームのメンバーにその手法を伝授しようとしてきたのです。何か歯車が噛み合わない。そうした状況が数年続いていました。
Fさんからの話では、どうも全体像がつかめないため、社長に御願いして、メンバーの何人かと話す機会をもらいました。その時に確認したところでは、「Fさんから教えてもらって
しっかりと実践できてないのが、申し訳ない」という弁。Fさんに対する信頼感は大変厚い印象でした。
が、現状を生み出している原因を探るために、更に確認してみると、メンバーの話から浮かび上がってきたことがりました。それは、「Fさんからの指導には大変感謝しているけれども、自分達にはFさんが推し進めようとする施策は、どれも難易度が高すぎるとあきらめてしまっている」というものでした。
一方、Fさんの方は、成果が上手く出ない部下に対して、対処する幅を広げて上げようと思いつく限りのやり方、パターン、ステップを集合研修、個別の同行等を通して伝えてきました。思いつく限りの支援をしてもなお成果が上がらない状況が続き、表だっては言わないものの、部下の能力に疑問を持ち始めていました。
そんな疑問が頭をもたげてからというもの、半期毎に掲げる目標も、以前は絶対に出さなかった低い目標値をFさん自ら部下に提示するようになっていました。周囲の期待とは裏腹に、成果が滞る組織。いつのまにか、部下達も、同期の支店長の後塵を拝するのが当たり前のようになっていったのです。
この状況に対してFさんは決して甘んじていませんでした。Fさんは、ジクジクたる思いでいたのです。Fさんのプライドが許しませんでした。部下の生産性が停滞する中、Fさんは、部下達の不足分を補うべく、文字通り寝る時間を削って、朝早くから深夜にいたるまで働いていました。
こうした状況の中で、Fさんとお会いしました。私に「何を改善したらいいだろう?」と言われても、「もう120%、130%やりきっていますよ。」とすっかり疲弊した様子でした。「口には出さないまでも、「これ以上はできない!」そういう状態だったのです。
Fさんには、悪気がなかったのです。しかし、結果的に「部下が最善の努力をできない状況」を創り出してしまいました。Fさんの率いる組織全体の行動量が100とすると、60-70程度の行動量を作り上げることだけしかできていませんでした。(Fさん談)
Fさんがやってきたことは、まるで成長力の著しい植物に覆いをかぶせて、その成長を妨げるようにしていました。そして更に、その植物を風雨にさらすことをせずに、温室で、肥料やら、水やらを過度に与えることで、植物本来のもつ力を引き出さす、ひ弱な根とほそく柔な茎をもった姿に変えてしまったのです。
この風景は、多くの企業で散見されることですが、組織本来の力を出せないのは、マネジメントの問題です。マネジメント技術を知らない人がこの状況をみると、「あぁ、Fさん、センスないなぁ」という言葉が飛び出しますが、これは全く的外れ。
実際、Fさんは、この状況を抜け出すべく、技術の改善を行いました。わずか3ヶ月でFさん自身も、Fさんの部下も、そして、社長を含めてFさんの同僚も、組織行動量の違いを実感するようになりました。技術を得ることで、ミルミル改善したのです。
Fさんの例は、決して特別ではありません。営業力抜群でも、マネジメントがうまく行かないケースは、これまで散々出会ってきましたが、技術が無い人に、技術を与えると、短期間に改善することができるのです。
もちろん、技術だけで十分ではありません。組織で成果を出すための「考え方」はとても重要です。念のため申しあげますが、根性論ではなく、「考え方」です。根性は、やる気、気合いの類いです。「考え方」は幾何学のように、一貫性が担保されています。一言でいうなら原理原則です。原理原則があるから、ぶれない。判断に窮したときにそこに立ち戻ることができるのです。
Fさんの場合は、自分自身が成果を出す「考え方」は確立していました。自分の行動量は拡大し続けてきました。本来、組織の行動量拡大のための「考え方」と、自分の行動量の拡大のための「考え方」は共通していることばかり。
組織行動量の拡大のためには、企業幹部としての「考え方」が追加されるだけなのです。
これもまた、二の足を踏む人ももちろんいます。企業の幹部に全員が成れるわけではありませんから、これは当然です。
多くの場合は、企業幹部としての「考え方」が何かも分からないうちに脱落していくのです。
本当にもったいないことです。
Fさんは、企業のトップを強く目指していましたので、新しい「考え方」の導入には、とても貪欲でした。今回、短期間にFさんが成果を出すことになった一番の要因は、Fさんの貪欲さであったことは間違いありません。
一方、持続して成長する組織を率いる成長リーダーは、もう一歩先を行っています。
組織の成果は、どんな時も、組織の行動量に依存します。組織の行動量を増やすためには、リーダーのマネジメント技術の向上が欠かせません。一方で、組織が拡大するにつれ、リーダー一人の力量のみならず、行動量を維持する仕組み。そして、行動量が拡大する仕組みの両方が必要になってきます。
この仕組みがないと、どうしても現場の重力に引っ張られ、行動量の維持のみならず、行動量の拡大にはなかなか結びつかないという状況が生まれてしまうのです。営業組織で、行動量を拡大させる仕組みの導入をした企業は、業界全体の成長率と反比例するように、成長し続けています。
組織の頭数以上に行動量を上げていくことは、どの業界、どの組織にとっても、まさに理想的な状況でしょう。やってみると、余りに簡単な仕組みではありますが、多くの企業では二の足を踏むやり方でもあります。導入した企業と導入しない企業を見比べると、この仕組みを使わない限り、組織行動量に明かな違いがでるのは、偶然ではなく必然です。
さて、御社の幹部の方々は如何でしょうか?
御社には、営業行動量を拡大するマネジメント技術と仕組みはありますか?