コラム「組織の成長加速法」-第213回 指示待ち社員を量産するのか? 提案する社員を溢れさせるのか?それは、社長次第。
IT企業の執行役員のYさんとの面談の開始早々、Yさんが開口一番「先日、びっくりすることがありまして。」と話し始めました。
Yさんは、つい1年前までは、プロジェクトの現場でプログラムを書いていたという、凄腕のプログラマーです。
ですが、プログラマーというよりも、エンターテイナーという言葉がぴったりの方で表情も豊かで、身振り手振りを使いながら、臨場感たっぷりに話されます。
Yさんの話は続きました。
「プロジェクトのサブリーダーをしている課長と喫煙所で一緒になりまして、プロジェクトの責任者から相談を受けていたので、サブリーダーの意見を聞いてみようと思いました。
私がさりげなく聞いてみました。
『プロジェクトの課題は何なの?』と。
すると、
課長が真面目な顔をして
『課題ですか・・・何でしょうね。』と。
雲行きが怪しいと言われているプロジェクトだったので、少しアドバイスしてあげようと思ったのですが、こんな返事だったのです。
警戒してるのかなと思って、自分の過去の大・大・大失敗の話をした後に、もう一度、質問したのです。
『問題が結構あると聞いているけど、どうなの?率直なところはさ?』
と再度聞くと、
『え?そうなんですか?問題・・・少し遅れ気味なところでしょうか!?』
との返事です。
「少し遅れ気味?」
「はい、そうなんです。」
「それ以外はない?」
「他に問題があるんですか?えぇ?なんだろう。今日、部長に午後聞いて
みようかな。問題・・・」
こんなやりとりだったのです。」
Yさんは、課長さんのモノマネらしきことをしながら、表情豊かに再現してくださいました。
このIT企業は、創業23年目という長い歴史をもっていました。
プロジェクトをまとめ役のプロジェクトマネージャーが疲弊し、メンタルダウンするケースが続いていました。
ある方からの紹介で、実務を取り仕切る執行役員のYさんから相談があったのです。
この企業は、総勢150人の組織規模にありましたが、2年前にYさんが社長の後任として、プロジェクト全体を統括する職にありました。
プロジェクトマネージャーは、大体部長職が受け持つことになっていましたが、8名の部長の中で、実に6名が体調不良の状態にありました。
会社の危機が迫っていました。
■思考停止する社員は、組織で創られる
こちらの会社の社長は、様々な雑誌にも登場する名物社長でした。
アイデアが豊富で、ウィットもあり、どこかYさんと重なるような印象をもつ方でした。
ところが、Yさんと違う面がありました。仕事の話になると、社員に対して高圧的な態度を取ってきたのです。
創業から一貫して変わらないやり方がありました。社長自身が契約に関わったプロジェクトでは、あらゆる場面で社長が口を出しました。それは、全体の方向性から細かなトラブルの解決まで、深く関わってきたそうです。
「考えること」はプロジェクトの責任者である社長に集中させるという形式は、15年以上も
続いたそうです。
このやり方がこれほど長く続いたのにはわけがありました。対外的には評判がよかったためです。
社長が驚異的な馬力で、次々とプロジェクトを完遂させていくため、社外からの評価は高かったのです。
その裏で、社員たちの思考停止は続いていきました。
何かあると、「社長に相談」「上司に相談」こうした、脊髄反射の文化ができあがってしまいました。
■提案力は開発可能な能力
社長の知名度、社長の性格や、マネジメントスタイルは様々です。また、社長に限らず、組織のリーダーも千差万別、マネジメントのやり方も、百人百様です。
どのような経緯で思考停止の社員が量産されたにしても、提案力の改善は可能です。
組織全体の提案力の総和と業績の回復は強い因果関係にあります。
多くの経営者もそのことを信じるからこそ、誰もが同じように「提案力のある社員」「問題解決力が高い社員」を望むのです。
社内で散々、思考停止の社員を育成しておきながら、組織の拡大と共に、自分一人の限界を超えると、「考える」社員を強烈に望むようになります。
私は、こうした創業経営者を責める気は毛頭ありません。誰一人として、この形式を経営者望んでいるわけではないのです。むしろ、これが創業社長が率いる組織の自然な形です。何も手を加えなければ、こうなるのです。
■「考える」社員を増やすことは、社長の仕事
できる社員、できるリーダーを意図的に増やすことは可能です。できるリーダーを増やせば、組織全体で、できる社員を増やしていくことの成功確率は飛躍的に上がります。
できるリーダーにマネジメント技術を与えれば、かけ算でできる社員を増やすことができるようになります。
できるリーダーは、考える力を鍛えることで作り上げることができます。リーダーの任にある人は、一般社員に比べると考える力が、社内の基準でいうと高い人が多いのです。
この状態から一気に、社外基準、業界基準のレベルに引き上げるためには、いくつかのステップがあります。
まず最初のステップは、自分の考えをまとめる力です。そして、同時に、自分の考えを具体化することです。
こうして書くと、とても基本的なことのようです。まさに、基本です。ところが、実際はここでつまずいている方がほとんどです。だから、先に進めなくなっています。
もちろん、この手のやり方は、沢山の本でも紹介されています。しかし、自分自身でこの問題に気づいている人が少ないです。そのため、改善できないまま、年を取っていく方が圧倒的な大多数です。
なぜ、私がこの問題を急速に改善させることができるかといえば、何も特別なことはありません。
ただ、この問題が、その人の問題であることに気づかせるだけです。先ほども書いたように、この問題をクリアすることはさほど難易度は高くありません。
誰でも取り掛かれば、直ぐに解消できます。ただ、その人が問題と感じなければ、その問題は
放置されるのです。
社長の決断は、たったひとつです。
「社員の「考える」力を引き上げるぞ!」と決断すること。
それは、「考えること」を社長が社員に移譲する決断をすることを意味します。
社長のこの決断が早ければ早いほど組織の急速な業績拡大の成功確率は高まります。
■後日談
Yさんは、以前ご支援した企業の社長からのご紹介でもありました。
緊急対応として、将来会社の柱となるだろう2名の部長の支援をすることになりました。
その後、1年半、結局、8名の部長全員の支援とさせていただきました。5年たった今でも、好調が維持されています。
上記の成果に加えて、離職率が低下したことが業績好調の理由です。