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代表 木村黒バック写真 コラム「組織の成長加速法」-第185話 組織改革の真実:K社長が見つけた効果的な仕組みとは?

売上20億円規模のサービスを提供するK社長からご相談を受けました。K社長はゼロから会社を立ち上げ、地域でNO.1の規模となりました。向かうところ敵なしで、一気に売上を拡大してきました。当初は経験者の採用のみでしたが、K社長の求める水準には程遠い方ばかりだったそうです。そうした方々を、叱咤激励し、一人前に育て上げてきたのです。その方々が役員です。


K社長は仕組み化にも抜かりはありませんでした。否、仕組み化を極めたのです。仕事の進め方を細かく規定して、最小の時間で最大の効果を出すために、試行錯誤を繰り返したのでした。K社長は自分のやり方に自信を深めていきました。一時は、この手法の外販を考えたほどでした。


ところが、K社長は悩みを深めることになりました。そのきっかけが新卒採用です。 K社長はさらなる規模拡大を目指して、新卒社員の採用も始めました。私がお会いした時は、新卒社員の採用を本格的に始めて6年目でした。 K社長の悩みは、若い社員の定着が悪いことでした。新卒社員が入社してから3年間で、7~8割が辞めてしまうことが続いていたのです。社内を見渡せば、辞めていく社員の穴埋めにより、残った社員の顔は暗く、明らかにストレスで体調を崩す社員も一人や二人ではありませんでした


あれほどうまく機能していた仕組みが、お世辞にも、順調とはいえない状況に直面したK社長が取り組んだのは、より良い仕組みを外に求めることでした。例えば、「若い社員には成長を実感させることが必要だ。そのためには、若い社員にぴったりな新たな人事制度が必要だ。」という説を聞き、K社長は、”もっともなことだ”と思いました。そして、その人事の仕組みを導入しました。


営業組織の分業化も実施しました。K社長の持論は、一人前の営業マンになるためには、アポイントから契約獲得まで、すべてをトップレベルで行えることこそが、大切だ、でした。そして、この考え方こそ、会社の強さの根源だと考えてきました。ところが、営業部門の新卒の3年間の退職者はことさら多かったため、分業を決めました。


社内の稟議申請もいち早く電子化して、支店と本社という物理的な制約を取っ払う仕組みも導入しました。さらに、オフィスも近代化させました。フリーアドレスも導入しました。

こうして、矢継ぎ早に、時代の変化に即応した仕組みを整えていったのですが、導入後には、期待していた効果は実感できず、社員の姿を見ても覇気どころか、一日仕事に集中する元気さえも残っているのか疑わしい状態でした。新卒も中途採用者も、定着する気配はありませんでした。


K社長が弊社に相談にいらしたのは、一連の試みをほとんどやり尽くした時でした。年末にお会いしたのですが、1月中旬から始めたいとK社長がおっしゃったことをよく覚えています。スケジュールの調整の結果、半月遅れの2月からのスタートとなりました。


K社長と常務と取締役の3名のプログラムが始まりました。常務と取締役は、部門のトップとして、退職予備軍の存在に戦々恐々としていました。 実際にプログラムが開始すると、早々にわかったことがありました。それは、古い仕組みも新しい仕組みも、一般社員は使い切れていないことでした。あまりにもステップが多く、やりきれずにいました。

常務と取締役の部下の方々にお時間をいただいて話を聞くと、この時ぞとばかりに、様々な不安、不満が語られました。後日、その模様を報告すると、常務と取締役も想定以上の反発があることに驚いた様子でした。

K社長の会社を訪問する際には、職場の横を通ります。若い社員、中堅の社員の方々の顔は険しく、静まり返っていました。社員の話し声が全くなかったのです。案の定、隣の社員とも、当時はまだ珍しかったチャットで会話する始末でした。


組織を効果的に動かしていくためには、仕組みが必要なことは言うまでもありません。一方で、K社長と同じように、仕組みにお金と時間をかけて導入し、仕組みは整っていても、期待通りの成果が出ないということを経験している経営者の方々は少なくありません。

仕組みは大切ですが、仕組みが期待通りに動くためには、仕組みを運用できることが前提です。多くの経営者が躓いているのは、仕組みを運用できていないからです。 当たり前のことですが、人間は機械ではないので、どんなにルールや制度、仕組みを整えても、制度や仕組み通りに動けるわけではありません。一番大切なのは、仕組み通りにやり続けること。これが進まないことが多いのです。


そもそも、「やり続ける」ことができたら、仕事も勉強、健康維持もすべてうまくいきます。私がわざわざ、ここで改めて指摘するまでもなく、このことも誰もが知っています。

経営者の方は、どちらかというと、「やり続ける」ことができた人が多いので、ここに大きなギャップがあります。 「やり続ける」ことは簡単なことではありません。これを組織運営の大前提にしなければ、あらゆる仕組みは、絵に描いた餅に終わります。

すべては、この大前提から始めるべきなのです。 社員が勝手に「やり続ける」ことを前提にせず、「やり続ける」ための仕組みこそが大切なのです。何やら大そうなことのように聞こえるかもしれませんが、これを実現させることは、発想の転換をすれば、実は簡単なことです。

組織には、組織の力学が働きます。その組織の力学を使えば、誰しもが「やり続ける」状態を作り続けることができます。組織の力学を使うためには、社員一人で「やり続ける」のではなく、上司と二人で「やり続ける」ようにすればいいのです


K社長、常務、取締役にも、この「やり続ける」仕組みの実践をしていただきました。すると、「もうできません。」「無理です。」「そんなことなぜやらないといけないのですか?」「これをやることの意味がわかりません。」「誰もやってないのに、なぜやる必要があるのですか?」等々、口を開けば不満があふれて出ていた退職予備軍が、積極的に取り組むようになりました。 取り組めば、成果につながるように設計された仕組みが、本来の機能を発揮していきます。顧客にも喜ばれ、社員の仕事のミスは減り、仕事のスピードは上がり、社員はやりがいを感じるようになります。好循環が生まれていきます。 こうなると、組織のレベルは上がっていきます。全員がなかなかできなかったことが、全員が当たり前にできるように変わっていくのでした。


K社長は、すっかり自信を取り戻していました。やはり、自分が推進してきた仕組みづくりは間違っていなかったと大満足していました。常務と取締役は、私から、社員が抱える不安、不満を共有していたので、「まったくうまくいかないことへの自信が強い状態」からのスタートでした。 ところが、先ほど記したように、不満を言っていた社員達の不満を言わなくなりました。半年もかからずに、彼らから建設的な提案がでてくるまでに変わったことに驚いていました。 K社長も、「やり続ける」ことこそが、会社の成長の根源だったことを再認識され、部長、課長、係長と、プログラムの導入を進めていくことになりました。

「やり続ける」ことは「やりがい」につながる。常務が朝礼でお話される際は、この言葉で締めくくられるようになりました。 「やり続ける」が広がれば、企業の業績は驚くほど変わります。最初は想像できないことですが、生産性が一度ならずも、二度、三度と向上していくからです。