コラム「組織の成長加速法」-第160回 業績低迷の原因は依存文化
160号
ある90億円企業のある支店長についてT社長からご相談を受けたのは、海外ではコロナ収束を宣言がちらほら始まった頃のことでした。以前弊社のプログラムを受けた社長からのご紹介で個別相談へのお申込を頂いたのです。
常に、営業会議で言われることが、「コロナ禍で顧客の動きが鈍っている」というもの。
T社長は、コロナ禍で、営業活動が低下した状態が続いていることを憂慮されていました。
プログラムの参加者は、社長と管理本部長の2名とH支店長が選ばれました。H支店長は旗艦店の支店長です。
全社の2割を稼ぎ出す巨大支店で、平均的な支店規模の2.5倍を超えていました。温和で知られるH支店長でしたが、コロナ禍前までは、まさに全社を引っ張る旗艦店でした。H支店長は多支店からのあこがれの存在。H支店長の先は、取締役の椅子が待っている、というのが既定路線というのが社内では暗黙の了解でした。
長引く業績低迷その理由は何か?
ところが、この既定路線が頓挫するような事態が起きました。コロナ禍で全支店の売上げは、一応に下がったのですが、コロナ禍からの回復が鮮明になっても尚、旗艦店の回復が遅れていました。
そして、社長の頭痛の種が更に増えます。H支店長に対しての不満を口にして、止める営業マンが続き、旗艦店の売上げ回復の鈍さが更に目立つことになりました。H支店では、これまで離職者は少なく、H支店長もショックを受けていたはずです。
社長も見かねて、旗艦店に足を運び、営業職員を鼓舞するものの、回数が増えるにつけ、支店の職員の表情が険しくなっていくのを肌で感じるようになっていました。
社長がH支店長を本社に呼び、状況の説明、対策、挽回策を聞きました。詳しいデータも確認しながら、H支店長から聞いた内容は、社長も改めて、H支店長の有能さを確認することになりました。
T社長は、そのはH社長からの報告を受けて
「自分も同じことをするだろう」
「なるほど、そこまで考えているのか」
とH支店長の話を聞きながら、感服することも多かったのです。
T社長は困ってしまったと言います。なぜなら、T社長は、挽回策に何らかの改善点があると踏んでいたのです。ところが、改善案は非の打ち所がなかった。では一体何が問題なのか?
実際に起きている現象は、T社長もコロナ前から、営業会議で感じている違和感に似ていたのです。それは、「これが実践できればうまく行くはず」なのに、実際はそのシナリオ通りに行かないことへのモヤモヤです。
理由が判然としない業績低迷。旗艦店の低迷が長引けば、全社の業績に赤信号が点ります。
言い知れぬ不安を抱えて、社長仲間の一言「組織を意図通りに動かすための技術」にかけてみようと、T社長は弊社へコンタクト取ったのでした。
変化に対応できない組織の未来
急激な環境変化が起きた時、変化適応が遅れた組織は急速に、業績悪化の渦に巻き込まれていくことがあります。
このことは、H支店長も、感じていたことでしたが、対応方法がわからず、状況を変えることが出来ずに苦しんでいました。
最初に現状の共有をしていた時、H支店長は少しイライラした様子で、こんなことを言いました。「社員の人数が多い分だけ、私の対応する人数が、他の支店とは違います。」
平時で、H支店長は、このことにストレスを感じることはありませでした。戦略や戦術の変更の必要は軽微なものでした。この点について、個々のスタッフに長い時間を割いて調整するような必要性はなかったのです。
コロナ禍で業績が急降下してから、1年ほど、H支店長はスタッフの対応に忙殺されていたのです。時間を使う割に、業績は一向に上向く気配はありませんでした。やがて、スタッフはHさんとのミーティングに意味を感じなくなります。
H支店長は、組織を成長させるリーダーではなく、破壊するリーダーになっていました。組織の統制は、ほころぶ一方でした。
前はうまくいっていたのに・・・
H支店長は、温和で知られた人でした。平時でも、パフォーマンスが悪い部下はいました。
そんな部下には、パフォーマンス状況をみて個別に目標を確認し、やるべきことを絞り伝えていました。
すると、H支店長の指示を実行した社員のパフォーマンスは改善に向かって進んでいったものでした。ところが、コロナ禍は明らかにつがっていたのです。
これまでの定石が崩れてしまいました。
お客様の行動が大きく変わってしまい、これまでの勝ちパターンが崩れてしまいました。他の支店でも手探りでしたが、旗艦店は動きが全く止まってしまったのです。
対応が後手後手に、というよりも、対応が出来なくなってしまったのです。原因はH支店長のマネジメントにありました。
H支店長は、温和ですが、話術が巧み。よく言えば、部下を思い通りに動かす術を手にしていました。悪くいえば、部下を指示通りに動かしていました。
H支店長だけが戦術を考え、部下はただ実行するだけでした。
平時であれば、定石がありました。ただ、同じやり方を、精度高く実践するだけでよかったのです。
ところが、突然、この仕組みが崩れ去ります。コロナ禍です。
激変する環境での組織運営を阻むもの
コロナ禍で、今までのやり方で、お客様の来店が完全に止まりました。そこで、文字通り、全てが止まってしまいました。部下達は、一斉にH支店長の口元に集中しますが、H支店長の口は動きません。
部下達は、バッテリーが切れたロボットのように動きが止まりました。H支店長は、他の支店と同様に、戦略の修正をして実践しようとしていたのですが、部下の動きが鈍かったのでした。
旗艦店以外の店舗では、支店長も顧客を持ち、日々、お客様との接点も多くありました。旗艦店の場合は、様子が異なります。H支店長は、顧客を持たず、店舗スタッフのサポートに徹していました。長いお付き合いをしていて、H支店長ご指名の顧客さえも、手放せざる負えないほど、更にサポートの時間が増えていました。
変化への対応方法は、未知の領域です。未知の領域では、正解がまだ定まっていません。誰も正解を知らないときは、「試行錯誤を超高速で繰り返すこと」です。
他店の支店長は、日々試行錯誤を自ら実践していましたが、H支店長自身は、部下経由で行うしかありませんでした。
どうやっても、改善スピードが遅い状態だったのです。しかも、部下自身の工夫の量が少ないのです。
それもそのはずです。考えられない部下、否、考えないように部下を育成してきた結果なのです。平時には統制が取れているように見えていたのですが、変化に全く対応できない部下ができあがってしまっていたのです。
リーダーのイライラを誘発する社員の発言
業績の回復は、周回遅れの様相でした。しかも、一周遅れではなく、2,3周遅れの状態です。試行錯誤を続けていた支店の中には、らかに復調が見えている支店もあったのです。
旗艦店の業績改善プロジェクトが始まりました。ゴールは、業績急回復、それともう一つは、
「依存状態から、自立状態」へです。H支店長には社員の自立を促す施策を強力に推進してもらうことにしました。
「えらく時間が掛かる話しだな」と考える社長が多いのですが、やり方次第で、高速で「自立」した社員への変貌は可能です。
課題解決のフォーマットを使いながら、数回の練習をすれば、誰でも、一気に、課題解決の思考法をインストールすることができます。
リーダーがイラッとする、社員からの質問の一つに、「これどうしましょうか?」というのがあります。
この丸投げの質問をあっという間に駆逐することができます。
緊急プログラム始動
今回は、財務的なインパクトが大きく、早急の立て直しが必要でした。そこで緊急体制でおこないました。H支店長と、リーダー候補となる3名、合計4名を選び出し、一気呵成に進めることになりました。
戦術は、他店が先行していたので、一番効率がよく、効果が高いものを選び、丸パクリです。H支店長は、ちょっと心配顔でした。他の支店とのやり方をそのまま旗艦店でうまくいくというものでした。そこで、コロナ禍対応の点に限定して他の支店の戦術を進めることで、H支店長には了解してもらいました。
戦術が決まれが、後は、実践力を段違いに引き上げるステップです。思考習慣を一気に変える特別プログラムで対応しました。
とはいえ、H支店の文化となっていた、依存状態の程度は、事前調査をいくらしても分かるものではありません。社長には、最大6ヶ月を約束して進めた手前、通常なら、H支店長だけが対応していただくのですが私もリーダー候補育成に一緒に関わりました。
選ばれたリーダー候補は3名は、30代後半から40代後半の方々、H支店長には、1名担当していただいて同時並行で進めました。
自立化と営業トークの接点は?
結果は、4ヶ月目で売上げ増に転じることに成功しました。選ばれたリーダー候補の方々は、支店の営業成績で半分より上の条件で選出しました。
旗艦店の営業成績で半分以上ということは、全社言えば、トップ30%に属する営業マン。もともとの話力は十分でした。
最速の効果を出すために、やり方の説明を全て営業トークと比較して説明します。すると一人のリーダーがいいました。「あ、これ、成約する時の話し方と同じだ!」
お客様に考えてもらい、お客様の行動を促すステップは、課題解決のやり方と同じです。もちろん、これは、偶然の一致ではありません。お客様が行動するように、社員も行動するようになります。
あれから1年半、旗艦店の伸びは、業界平均を上回り、コロナ禍前をしのぐ勢いです。社長からは、全支店のサポートを依頼されることになりましたが、丁重にお断りいたしました。
社内全体の文化を変えるべく、支店単位ではなく、全社で改善する形式に切り替えて実施中です。
このことは、改めて、別の機会にお伝えしましょう。
さて、ご自身の組織を点検してみてください。目の前の依存社員を半年間で、自立社員に変えることはできますか?
成功したかどうかは、業績の改善が目安です。業績の改善ができなければ、まだ依存社員がいるとみて間違いないです。